震災があったからAV女優の道を選んだ―ルポライターが彼女たちの物語を書いた理由

更新日:2014/12/10

   

 「あの震災がなければ、AVに出ていなかった――」。思春期の心揺らぐ時期に東日本大震災に見舞われたことがきっかけで、AV女優の道を選ぶことになった7人の少女。『それでも彼女は生きていく』(山川徹/双葉社)は、彼女たちの生の声に迫ったルポルタージュだ。

 山川氏は、大学時代から『別冊東北学』(作品社)の編集に携わり、ルポライターとして東北の現在を記録し続けてきた。本書の取材を始めるまではAV業界を深く知ることはなかったという。山川氏が取材を通して気付かされたこと、そして本書を書いた理由とは?

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――本書では、7人の少女たちの肉声が綴られています。そもそも、取材を始めたきっかけとは?

山川 きっかけは、東日本大震災から4カ月ばかりが経った夏の日に、「被災した女性たちが、上京してAV女優や風俗嬢になっている」という噂を被災地で耳にしたときです。

この噂を聞いた時、僕はきっと本当のことだろうと思った。おそらく自分が書かなければ埋もれてしまう現実だと思った。そして、情報を集めて震災の約1年半後から本格的に取材を始めました。

――山川さんは、本書を書いて初めてAV業界について知ったことも多かったそうですね。取材をしてみての、率直な感想を教えてください。

山川 悲しかったですね。どこかで信じたくない気持ちもあったし、取材をすればするほどみんなが普通の女の子だったから。性産業に従事する女性への偏見はありませんが、同じ東北出身という近さが複雑な思いを抱かせました。

特に、なじみの深い街の出身者である、いわば”隣に住む妹分”みたいな同じ東北出身の女の子たちが、AV女優という生き方を選ばざるを得ない、あるいは積極的に選んでいることに対して、身内が傷ついているような心持になって。目をそむけられない現実なのだと知るほどに、その気持ちは強くなりましたね。

もっともショックだったのは、最初に取材をした女の子が1年後には引退していたんですが、彼女が最後にスカトロ系のAVに出演していたんですね。取材時は「アイドルになりたい」と目を輝かせていた女の子が1年でここまで身体を張るのかと、そのスピード感に驚きました。

――取材を終えて、何か気付きはありましたか?

山川 取材をするまでは、震災とAV女優になるという行為には色濃くてわかりやすい因果関係があると思い込んでいたんですよ。たとえば、震災で親を亡くしてお金もなく必要に迫られて…というように。もちろん震災直後であればそういう例もあったのでしょうが、取材をして話を聞くと因果関係はかなり薄かった。とはいえ、それは非常に現代的で、かえってリアリティがあるなと感じました。

ただ、彼女たち全員が口にした「震災がなければAVの道を選ばなかった」という言葉は大切にしたかったんです。特に、唯一顔出しをして包み隠さず住んでいる街のことからAV女優という職業について語ってくれた椎名ひかるは、震災前にAV女優になり、すでに引退していた。でも、「震災がなければもう一度やることはなかった」と彼女が思っているのであれば、それは彼女にとっての現実。少なくとも、震災の影響を受けた人生を送っているという彼女たちの認識は本物なんですよ。

――「震災がなければAVの道を選ばなかった」という言葉以外に、彼女たちに共通項はありましたか?

山川 全員、良くも悪くも幼い印象でしたね。幼いからこそ無鉄砲にもなれるし、リスクもかえりみずにAVの世界に飛び込めたんでしょう。あと…7人中5人に「ありがとうございます」と言われたのには驚きました。理由を聞くと、「自分の人生を初めて振り返ることができた」「なぜ自分がここにいるのかわかったように気がする」と答えるんです。自分の置かれている状況を振り返る時間も、気持ちの余裕もなかったのかもしれません。

少し話はそれますが、先日も震災の現場に行った際、あるお坊さんと話をしていたんです。彼が言うには、何か喪失感を得てくずれそうになったとき、人は物語を求める、と。自分の行動に納得して動き出すためには、自分自身で物語を紡ぎ直して、現状に納得する必要があるそうなんです。

それと同じで、彼女たちが「震災があったからAV女優になった」という物語を語るのは、防衛本能かもしれないけれど、そうでもしなければ納得して前に進めないからなんですよ。その裏には、彼女たちが抱いた震災への恐怖心や家族への思い、故郷を思う気持ちがある。

だから、みんな痛々しいほどに気丈で明るく前向きに振舞っていましたよ。自分の選んだ人生を後悔なんてしていたら、前に進めないんですよ。だから、「AVの道で頑張っていくんだ」「これだけの人がかかわるチームでものを作り上げているんだから、自分も頑張らないと」と、強く自己肯定しようとしているのを感じました。

――最後に、なぜ山川さんは自身が彼女たちの話を聞き、その物語をまとめるに至ったのだと思われますか?

山川 本を書きたいほどのモチベーションが生まれるときって「ああ、見ちゃったな」みたいな感覚になるんですよ。自分しか知らないものを見てしまって、記録しておかないと誰も知らないまま埋もれてしまうから書かねばならない、って。被災地からAV女優が多く生まれているという話を聞き、実際に彼女たしに会ったときは、まさに「ああ、見ちゃったな」という気分になりました。

 僕はルポライターとして、知り、取材したからには書く責任があると思っているんです。今回で言えば、彼女たちの今の話に耳を傾けて個々の物語を記録していくことで、自分の責任を果たしたかった。それが誰も知らない、目をそむけたくなるような現実であるからこそ、です。

 震災で自分の人生が変わってしまったという認識を持っている少女たちが、結果的にAV女優という道を選ぶことに、どんな意味があるのか――。これは、ルポライターとして真面目に向き合うべきテーマだったと思っています。

取材・文=有馬ゆえ

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