なぜ「単位」は世界的に統一できたのか? その模索の歴史をひもとく

科学

更新日:2014/12/11

   

 世の中には様々な単位があり、それぞれ標準が決められている。一般的によく知られてきた単位の標準と言えば、「時間」はイギリスのグリニッジ天文台、「長さ」はフランスの国際度量衡局にあるメートル原器、「重さ」は同所にあるキログラム原器…あたりだろうか。しかしこうした“今まで当たり前だと思っていた標準”が、近年、変わりつつある。

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 今回紹介する『世界でもっとも正確な長さと重さの物語 単位が引き起こすパラダイムシフト』は、科学史(特に物理学)のベースとなる普遍的な単位系の決め方について、トリビア的な知識をふんだんに散りばめながら紹介していく1冊だ。著者は『世界でもっとも美しい10の科学実験』『世界でもっとも美しい10の物理方程式』などの著書で知られるロバート・P・クリースで、文明が始まってから現在に至るまでの世界中の単位にまつわる話を、時にはおとぎ話を語るかのように、また時には哲学者や物理学者の視点に立った学術書のようにしたためている。

 本書によると、「長さ」「重さ」「量」の標準が見直しされることになった背景には様々な理由があるが、大きくは科学の進歩によって精密な計測が可能になったことや、原器自体の摩耗、経年劣化によって誤差が生じ始めていることなどが挙げられるという。特に重さの単位である「キログラム」については、「第25回国際度量衡総会」(2014年11月開催)で120年以上使われてきた「国際キログラム原器」を廃止し、新しい標準が決まると言われている。

 本書の中で著者は、「計測計量の物語は、最も劇的な形を取ったものの一つである」と語る。かつては一つの国の中ですら地域ごとに定めた度量衡の単位があったり、人々は正午に鳴らされる「号砲」をランチの目安にしたりして暮らしていたそうだが、歴史的に見れば短いこの約200年という時間のなかで、事実上すべての度量衡が一つの普遍的な度量衡体系に統一され、世界中の国々に「国際単位系」(SI)として採用された。これは「世界中がたった一つの言語で統一されるくらいのインパクト」なのだという。

 ではなぜ、言語や宗教などを差し置いて単位だけが世界中で統一されることになったのだろうか。本書によると、私たちは小さな頃から身長や体重を気にしながら育つものだし、料理のレシピは材料の量をカップやさじ加減で計測するのが普通だが、基準が曖昧だと正しく計測したり比較したりすることができない。すると日常生活をはじめ、長期的に見れば経済面などにも様々な支障が出てしまうため、必要に迫られて世界標準をつくることになったのだそうだ。

 しかし標準を決めても、それにそって正しく測定しているのかという問題も常に付きまとう。そこで現代では、一部地域で慣習として使われている単位以外は、基本的に物理法則によって誰でも同じ数値が求められるよう「国際単位系」(SI)で管理されることになったという歴史があるという。

 ちなみに従来の度量衡の単位は自然にひも付けられていたため、「標準原器」を作って保管しておき、定期的にズレがないか現地で比較する必要があったが、新しく決まる単位の標準は物理定数によって導き出すことができるため、科学的な測定技術があればどこででも正しく計測することが可能になる。これにより、「特定の国が権力を誇示するために標準原器を国内に置く」といったこともなくなり、国家間の権力格差がちょっとだけ少なくなったとも言えるだろう。

 さて、新しく決まる「キログラム」とはどんなものになるのか。実は…私たち一般人にとっては「まったく変わらないのと同じ」だそうだ。というのも、新しい「キログラム」は「アボガドロ定数かワットバランス法によって決定」され、それは「どちらで検出しても誤差が出る」もので、かつその誤差も従来のキログラムとの重さの差も原子レベルのため、私たちが使用している体重計やキッチンスケールでは到底検出できないだからだ。個人的にはちょっとがっかりである。

文=増田美栄子