みんな悩んでいる! 20カ国でむさぼり読まれている英国一の出版社社長が説く「上手な愛し方」

暮らし

2014/12/11

   

 「毒親」という言葉がどうも好きになれない。「毒親特需」というべきか、猫も杓子も売れるからと毒親本を出版し、毒親特集を組む今、それは本当に人々の役に立っていると言えるのだろうか。むしろ逆のように思えてならない。奥底にしまい込んでいた負の感情を、不特定多数の人間に思い起こさせるだけさせて無責任に放置しても全然へっちゃら。そんな自称・専門家の多さに反吐が出る。

 「あなたの親は毒親だったのね。わたしの親もそうだったの。でも、あなたはこうして生きている。よくやったわ。いい子、いい子」なんて言いつつ、自分よりかわいそうな人を見つけては、貧困ビジネスの渦の中に瞬く間に飲み込んでしまうのが「毒親合唱隊」の手口だ。無論、著者自身は「親を悪く言うものではない」なんて1ミリも思っていないし、つらかった経験を吐き出す場所が必要なことも十分理解している。しかし、本来、必要なのは、親の影響で自分や他人の愛し方がよく分からずに、立ち止まってしまっている「今」の改善であり、「過去」にむやみやたらに固執させることではない。正しい愛し方を知ることのほうがより建設的に思える。

 イギリスで最も成功した出版社といわれるWhite Ladder Press社の創設者、リチャード・テンプラー氏の著書『上手な愛し方』(亀田佐知子:訳/ディスカヴァー・トゥエンティワン)は、愛し方が分からずに悩む人々に対して、シンプルかつ行動に移しやすい答えを記している名著である。「愛は一生の大問題。愛することは人間の本能だが、それだけではうまく愛することは難しい。愛には取扱説明書が必要なのだ」と訴え、上手に愛することのできる人が守っている88のルールを紹介している。その多くは当たり前のようでありながら、ついおろそかにしてしまいがちだったり、あらぬ方向へといってしまいがちなものばかり。人間関係に迷ったり悩んだりした際に、自分の愛に対する考え方や行動をセルフチェックするには、うってつけの内容となっている。

 例えば、外見について。恋愛をすると相手の好みにより近づこうとする人がいるが、「外見に欠点があればむしろラッキー」と著者はいう。外見がおとろえただけで、いい関係を保てなくなるような相手が近寄ってくるのを、欠点が防いでくれているからだ。

 また、「日々のなんでもない思いやりにあふれた行為が“愛のサイン”でなくてなんだろうか」と説いている。チョコレートや花束だけがプレゼントなのだろうか。たとえば毎朝入れてくれるコーヒーや自分の代わりにやってくれる庭の手入れは、愛に裏付けられた行動と言えないだろうか。もし、そう思えないなら、相手を責める前に、自分の考え方を改めたほうがよい。

「仕返しをしない」というのも、なるほど誰もがそうと分かっていながら、なかなか自制がきかない愛のルールである。つらい時間をやり過ごすように努めたほうが、仕返しをして、あとから後悔するよりずっとマシ。あの時の自分の判断や行動は正しかったと、のちに自分を誇りに思えるだろう。

 そして、何より、壁にぶち当たったときは、自分の外側の世界に目を向けること。「特に、ものごとが悪くなりはじめたら、自分の内側を見つめることをやめなければならない。考えるべきは、周囲の人々のために、自分の愛を最大限に活用する方法だ。そうすれば、自分は役に立ち、価値ある存在だと感じられる。その感覚は、今後なにを経験するにしても、あなたの助けとなり、外側の世界へとあなたを連れ出してくれる」という。過去の行動を振り返ると、確かにそのとおりだ。

 ずっと読んでいると、道徳の教科書でも読んでいるような気分にならなくもないが、不思議と穏やかな気持ちになってくる。それだけ現代は、「当たり前の愛」や「道徳心」に飢えている時代といえるのだろう。欲するより、まずは与えよ。確かに、そちらのほうが懸命だ。

 足りない部分を補充したり、過剰な部分を逆に削ったり。愛を上手に紡ぐには、日々のセルフチェックとメンテナンスが、どうやら欠かせないようである。

文=山葵夕子