ナイナイ岡村、キンコン西野、南キャン山里、ウーマン村本 ―芸人世界に生き残った彼らが恩師に語った本音とは

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公開日:2014/12/13

   

 以前、オリエンタルラジオの2人が番組でこんな話をしていた。「海外に1年間留学するみたいに、“NSC留学”があったらいいのに」。NSCとは、吉本興業のお笑い養成所。1982年創設以来、数多くの芸人を輩出してきた。1期生がダウンタウンだったことでも広く知られている。

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 オリラジの2人曰く、「芸人になるならないに関わらず、NSCでは学べることがたくさんある」。それを聞いたとき、「芸人を目指しているわけでもないのに、高い授業料を払って1年間お笑いの勉強をするなんて、なぁ…」と思った。しかし、『吉本芸人に学ぶ生き残る力』(本多正識/扶桑社)を読んで、なぜあのとき“NSC留学”しなかったのだろうと、猛烈に後悔した。

 著者の本多氏は、ナインティナイン、キングコングらを指導した伝説のNSC講師。ナインティナインが結成当初、“岡村がツッコミ、矢部がボケ”をしていたとき、「ボケとツッコミ逆や」と運命を変えるひと言を言った、あの人だ。「鬼の本多」と恐れられながらも、数々の芸人を一流に育てあげた手腕と、たとえ無名でもとことん世話をする面倒見の良さから、人望は厚い。

 本書は、「生き残る力」についての記述の間に、著者がNSCで指導した芸人4人との対談が入る、という一風変わった構成だ。芸人たちの生の声が、“生き残るためにすべきこと”の裏付けになっている。この点が、巷に溢れる自己啓発本とは毛色が違う。

 対談した芸人は、ナインティナイン岡村、キングコング西野、南海キャンディーズ山里、ウーマンラッシュアワー村本。彼らがお笑いの世界に足を踏み入れたそのときから現在までの、並々ならぬ苦労話や、お笑いへの熱い思いが綴られている。歩んできた道は違えど、共通して、「NSC時代、本多先生に認められたくて血の滲むような努力をした」ということがひしひしと伝わってくる。

 著者が指導者として最も優れている点は、生徒をこれでもかと言うほど“よく見ている”ところだと感じる。と言うのも、対談した4人それぞれに対して、まったく違うスタンスで指導していたようなのだ。キングコング西野には、飛び抜けた才能を認めながらも、「何があっても絶対に褒めなかった」という。ウーマンラッシュアワー村本に対しては、「好きなことをしたらええねん」と今でもなお、言い続けている。著者は、“アドバイスをするときに気を付ける点”について、こう述べている。

「自分に必要なこと以外は聞き流せるタイプか、言われたすべてを飲み込んでしまうタイプか見極めること」

 前者はキングコング西野。“絶対に褒めなかった”のは、「ヘンに褒めると天狗になると思ったから」。結果、キングコングの2人は1日17~18時間もの練習をして、NSC卒業後すぐにブレイクして今に至る。一方、ウーマンラッシュアワー村本は後者のタイプで、言われたことを全部改善しようと思い詰めてしまうため、アドバイスは必要最小限に留め、最後に「好きなことをしたらええねん」と付け加える。「その言葉に何度も助けてもらいました」と、THE MANZAI優勝直後の村本からのメールに書いてあったそうだ。

 対談では、テレビでもラジオでも雑誌のインタビューでも語られることのなかった、芸人たちの本音が吐露されている。西野は、敵を増やすような発言をしていることを指摘され、「ルールとして、噛みつく相手は“自分より力のある人”にしている」と、ブレない西野哲学を語る。しかし、「……9割は後悔してます(笑)」と弱音も吐く。村本は、テレビ等で散々、「西野が嫌い」と発言しているが、「西野のファンやったんですよ。憧れみたいな。イベントがあったら必ず見に行って、後ろでメモしてました」と打ち明けている。

 ナインティナイン岡村も、南海キャンディーズ山里も同様。「えっ!? そんな思いを抱えてお笑いをやっていたの!? なんで今まで言わなかったの!?」という、驚きのエピソードがてんこ盛りだ。いかに普段、我々は彼らの“メディア向け”の顔しか見ていないかがよく分かる。キャラを作るというのは、芸人としてのプロ意識が高い証拠。しかし、お笑いの世界に足を踏み入れた、まさに原点となる時代の恩師によって丸裸にされた彼らは、子供のように無邪気で素直で可愛らしい。

 本書のコンセプトは、芸人の魅力を伝えること自体ではなく、そんな彼らの“生き残る力”を学ぶこと。「メールは届くものという考えは危ない」「あいさつができない人から消えていく」「使われる側より使う側が配慮をすべき」といった、生き残るための“心得”が多数、盛り込まれている。必ずどこかに、ハッとする部分があるはずだ。

 お笑いが好きな人もそうでない人も、騙されたと思って読んでみてほしい。特に“だれかを教育する立場の人”に、ぜひ読んでいただきたい。こんな指導者に巡り合えたら、どんなに素晴らしいことか。「鬼の本多」に育てられた芸人たちは、なんて恵まれた人たちなんだろう。

文=尾崎ムギ子