桜坂 洋×三上 延 対談「キャラ作りはサービス精神」

マンガ

更新日:2014/12/13

「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズの累計550万部突破、ライトノベル初となった『All You Need Is Kill』のハリウッド実写映画化。今年ライトノベル&キャラクター文芸業界に大きな話題を呼んだ二人が、ジャンルに対する意識から作品に対するスタンス、キャラクター・ストーリーの創作法まで奔放に語る。

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【三上】 桜坂さんのデビュー作『よくわかる現代魔法』は初版で買ってます。同年代でデビューも近かったので作風に関心があったんですよ。それで読んでみて、これは俺には書けないなって(笑)。

【桜坂】 作風、全然違いますよね。僕も三上さんのデビュー作『ダーク・バイオレッツ』は買いました。今日は持ってきて電車の中で久しぶりに読んできたんですが、やっぱり面白い。当時、ライトノベルの新人賞受賞作は全部読んでたんですが、もう追いかけられないですね。どんな層が買っているのかもわからなくなってきましたし……。

【三上】『ビブリア』に関しては、僕のこれまでの作品を読んできてくれた方もいますが、30〜50代の女性が多いですね。

【桜坂】 それは確かに昔のライトノベルの読者層と違いますね。ジャンルに関係なく、女性層の感性にマッチしたということなんでしょうね。

【三上】 狙っていたわけじゃないんですが、『ビブリア』ではそこがうまくいったのかなと思います。

【桜坂】 逆に僕は、『All You Need Is Kill』を書いたときライトノベルらしいキャラクターとしてシャスタという技術者の女の子を狙って入れたんです。他の部分をなにも気にせず書いてしまったから。そうしたらあのキャラだけ突出しておかしいと言われるように(笑)。

【三上】 僕もあまり書いているときにライトノベルということを意識しないですね。もちろん中高生の読者がメインだった頃は、若い読者が楽しめるような仕掛けや女の子のキャラクターを作ったりしましたが。

【桜坂】 以前、文芸の編集者から『自分たちがやっていることは昔の偉大な作家たちが作った過去問題集を解いているようなもので、新しいものは作り出せていないんだ』と、諦観したように言われたことがあるんです。現代の小説は昔の作家が作り上げた人物造形の類型を踏襲するにせよ、反発するにせよ、それを意識しないと書けないものです。が、結果的に、ライトノベルはそういう型を意識せずに進んでこれた自由さがあったと思うんですよね。

【三上】 桜坂さんはデビュー前からライトノベルを読んでましたか?

【桜坂】 読んでましたよ。僕、基本的にガリ勉なので読んで勉強してました(笑)。

【三上】 僕はほとんど読めてなかったんです。もともと一般小説の新人賞に応募していたのですが、全然ダメで。もうやめちゃおうかなというときに、当時バイトをしていた古本屋ですごく売れていたライトノベルに興味を持って。それでもう少しだけチャレンジしてみようかなと。

【桜坂】 それがうまくはまった感じなんですね。『ダーク・バイオレッツ』のキャラクターについてはどんなイメージがありました? 当時から読者の意識にはマンガに出てくるようなキャラクターのイメージがあって、その延長線上にないとあまり受け入れられない傾向にあったと思うんですが。

【三上】『ダーク・バイオレッツ』に関してはスティーブン・キングの学園ものだったんですよ。

【桜坂】 キングは実写だ(笑)。マンガ的なキャラクターを意識したわけじゃないんですね。

【三上】 だからいまいちパッとしなかったのかもしれない(笑)。『ビブリア』に関しても、そういったマンガ的なキャラクター作りはあまり意識していないですね。読者がいかに感情移入しやすいかということしか考えていなくて。古書という題材はハンデになると思っていたので、それを乗り越える方法を考えて今の形になったんです。書き始めは僕のそれまでの作品を読んできてくれた20代男性という読者層を想定していたので、主人公は本のことがよくわからない青年にして、美人のお姉さんに本の解説をしてもらうしかないだろうと(笑)。

【桜坂】 それを聞いてわかったのですが、さっきの僕のシャスタのことと総合すると、僕と三上さんのキャラクターという点から見た共通点って、サービス精神ですよね(笑)。

【三上】 少しでも読者受けがいいようにと考えた結果ですね。小説のキャラクターはストーリーが決める桜坂『All You Need Is Kill』の場合、最初に“ゲームのようなループ”というアイデアがあって、これが『ビブリア』の“古書”にあたると思うんですが、次にそれを転がすためにテーマを考えるんですよ。で、テーマを考えてどんなストーリーにするか決めたときに、主要なキャラクターは自動的にほぼ決まっちゃうんですよね。もちろん外見なんかは読者層に合わせていじれるんですが、キャラクターの性格などの基本的な要素は、そこから逸脱することができないんです。

【三上】 キャラクターは重要ですが、ストーリーよりもキャラクターが優先するということはないですね。『ビブリア』だと男女を入れ替えるかというのは最後まで悩みましたが。男をイケメンにして。

【桜坂】 ありですね。むしろ男×男でもいいかもしれない(笑)。

【三上】 読者層を考えるとそっちでも良かったですね(笑)。

【桜坂】 マンガだと、打ち合わせのときに「キャラクターがどう動くのか」という話が中心になるみたいなんですよ。でも僕の打ち合わせだと、こんなアイデアがあって、こんな展開にして、じゃあ、そこからキャラクターをどうしていくかという感じになります。こんな面白いキャラがいて……という作り方は小説ではやりづらい。

【三上】 物事に対するキャラクターの反応を描かないと小説にならないですから、内面がどうしても必要なんですよね。結局、何らかの題材なりアイデアがあって、そこから自分が楽しめて読者も面白がってくれるものを考えていく感じでしょうか。

取材・文=橋富政彦/『ダ・ヴィンチ』1月号「BOOK OF THE YEAR 2014」より

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※桜坂 洋×三上 延 対談の続きは
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