いつの時代も就活は大変! 「就活生=黒スーツ」の常識はいつ生まれた?

社会

更新日:2014/12/19

 もし、服が身につける者の感情に影響を及ぼすならば、黒いスーツに身を包めば、暗い気持ちになるのも無理はない。就職活動に励んでいた時代、他の就活生と似通ったスーツに身を包みながら、そんなことを思っていた。女性であれば、黒いスーツに、スカート、白いシャツ。男性であれば、白いシャツにネイビーあたりのネクタイ。どうしてこんな決まりきった、個性の感じられない服装をしなければならないのだろうか。

 社会学者の難波功士著『「就活」の社会史 大学は出たけれど…』(祥伝社)では、いつの時代も学生たちを苦しめる就職活動の歴史をそれぞれの時代の映像作品や新聞・雑誌記事を素材として概観している。難波氏によれば、一部の景気の良い時代を除けば、100年前から「就職難」「就活うつによる自殺」「学歴フィルター」「青田買い」は問題視されていたらしい。しかし、一方で、就活に対して抱いているイメージや常識の中には、たかだか2~30年で作り上げられたものも少なくはない。

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 その代表例として挙げられるのが、「就活=黒スーツ」という常識だろう。たとえば、1981年9月20日号『non-no』の「緊急特集 面接のとき何着る? 新OL100人と有名企業4社に聞きました」では、「銀行、メーカー、商社など、一流企業19社に今年就職した短大・四年制大学卒の方たち」100名にアンケートを取り、面接に臨んだ際のファッションについて特集を組んでいる。その中で挙げられたのは、次のようなファッションである。

1位 : スーツ 76票
(紺35、グレー19、ベージュ10、ワイン4、白・黒・ピンク・紫ほか各1)
2位 : ブレザー 33票
(紺12、ベージュ5、グレー3、白・モスグリーン・からし・黒・赤ほか各1)
3位 : ワンピース 21票
(紺7、柄もの3、赤チェック2、ピンク・グレー・紫・青・黒ほか各1)

 難波氏によれば、この調査は、「複数回答あり」という条件での調査のため、黒いスーツの1名についても、つねにそれで就活をしていたわけでもないのかもしれないという。30年前までは、面接に女子が黒スーツというのは、非常識だったらしい。記事は、「ほかの人に差をつけようとユニークな恰好ででかけたという武勇談をよく耳にしますが、個性とはその人の人柄や発想力や地域レベルなど、内面からキラリと出てくるもの。服装や見かけで奇をてらうと、しくじる可能性が大」と締めくくられている。この結論自体は、今日でも通用する正論であろうが、紫やピンクのスーツ、からし色のブレザー、プリント柄のワンピースなどでの就職活動自体は、今の常識からすれば、十分、「奇をてらう」行為といえそうだ。

 この特集が組まれたのは、雇用機会均等法以前の話であり、女子新入社員の位置づけも今とは異なっていたといえるだろう。しかし、平成に入っても、1990年代前半までは、明るいグレーやベージュなどはまだまだありうる選択肢だったと難波氏は語る。だが、「失われた10年」や「就職氷河期」などとささやかれる中で、「紺→濃紺→黒」と、世の中の暗さを象徴するかのように、この20年間で就活生の色合いは、どんどんモノトーンとなっていったようだ。

 IT系やマスコミをはじめとした企業を志望する就活生の中には時折、明るいスーツを着用して個性をアピールする者もいるが、それも少数派。企業から「選考は、私服でおこしください」と言われると、「何か裏があるのではないか」と就活生向け掲示板で動向を探るのが、現代の就活の常だ。

 今後、就活をめぐる服装はどのように服装が変化していくのだろうか。経団連は、就活のスケジュールを2016年春の卒業予定者から大きく変更することを決定。就職活動の情報解禁時期を3年生の3月、選考活動を4年生の8月へと、現行より3~4カ月遅らせようとしている。これは、就活の早期化・長期化が学業へ悪影響を与えていることが理由とされているが、4年生の8月ともなれば、論文執筆のための研究成果を出さねばと焦りを抱えている頃。就活スーツが世の中の情勢を映し出す鏡なのだとすれば…就活生が益々暗い色を身につける時代が来ないことを祈るばかりである。

文=アサトーミナミ