ヤマンバ、イベサー、ガングロ…ギャル・ギャル男はどこに消えたのか? 【『S Cawaii!』浅見悦子編集長インタビュー】

社会

更新日:2019/10/20

 ギャル雑誌が相次いて休刊してしまった2014年。そんな中、今も20代を中心とした若い女性から絶大な支持を得ている『S Cawaii!』(主婦の友社)の浅見悦子編集長に、「本当にギャルと呼ばれる存在はいなくなってしまったのか?」を聞いた。

『S Cawaii!』編集長・浅見悦子さん

■女子高生の意見から生まれた『Cawaii!』

―「コギャルブームの先駆け」に

 そもそもギャル雑誌は女子大生向け雑誌の派生からスタートしたんです。90年代前半、女子大生向けファッション誌『Ray』に高校生の読者が意外と多くいるということを知り、彼女たちを集めて「なぜ読んでいるのか?」をヒアリングしたそうです。すると彼女たちから「大人っぽいセクシーな格好をしたい」という反応があって、そうしたティーン層をターゲットとして1995年に創刊されたのが『Cawaii!』でした。同誌は「コギャルブームの先駆け」の雑誌となったんです。

advertisement

 そして制服を着ているティーン層が読者である『Cawaii!』創刊から3、4年経ち、当初の読者たちが20歳前後になって「読みたい雑誌がないから新しい雑誌を作って欲しい」という声が当時の編集長にあったそうです。当時の『Ray』は、今よりもかなりコンサバティブなファッションでしたからね。それで18、9歳くらいから上の世代で、コンサバティブにはなりたくない、自分らしいエッジを効かせたものを好む人たちへ向けて、2000年9月に『S Cawaii!』が創刊されました。

―『S Cawaii!』の「S」に複数の意味

『S Cawaii!』(2015年1月号)

 「S」には「セクシー・スーパー・スペシャル・シスター」など色んな意味が込められています。もちろん「渋谷」の「S」という意味もありました。

 ギャルブームの頃、『S Cawaii!』では外国人のような顔になれるメイクの特集などをやっていました。当時はジェニファー・ロペスやブリトニー・スピアーズが人気で、白人やラテン系など、目鼻立ちがハッキリしていて唇もぽってりした感じのメイクでした。それが2006~7頃になると「ハーフ顔メイク」に変わってきて、外国人メイクよりももうちょっとマイルドになり、2010年頃には「ナチュラルハーフ顔メイク」に変わって、現在へ続いています。現在ではローラさんや沢尻エリカさんなどが「読者のなりたい顔」で、鼻は高く、彫りが深く、目はパッチリ。でもアジア的かわいさもあるメイクが支持されていますね。外国人~ハーフ顔~ナチュラルハーフ顔と濃度は薄くなっていますけど、この流れはずっとあります。この世代が大人と一番違うのは「ノーズシャドウ」をよく使うことですね(笑)。

■ギャル文化の源流は80年代にあり

―男女雇用機会均等法の施行でより色濃く

「ギャル文化」の源になるものは、女性が強くなったといわれる80年代にあるんじゃないかと思うんです。当時は「イケイケギャル」と呼ばれる豪快な女性たちがいて、男性がやることだったゴルフをしたり、競馬に行ったり、ジョッキで生ビールを飲んだりしていたんです。彼女たちは男性の目を気にせず、自分たちがイイと感じたことをやっていたんです。

―「ギャル」はカワイイ、カッコいいを追い求める「開拓者」

「ギャル」というのは、気持ちとして可愛くなりたい、そうなろうと頑張って努力している人だと思うんですが、90年代にコギャルと呼ばれた子たちは「イケイケギャル」を見ていて「努力の仕方にはいろいろあるんだ」と気づいたと思うんです。そして当時の日本には「カワイイ」のバリエーションって少なかったんですが、海外に目を向けてみるといろいろあるということに気づいたのも彼女たちだったんです。

 それ以前に海外のカルチャーに目を向けている人はごく一部で、大多数は音楽や映画などを楽しむだけでした。そこから一歩踏み込んで、ファッションやメイクなどを「カルチャー」として取り入れようとしたのがギャルだったわけです。ブラックミュージックのディーヴァがカッコイイと思えば音を聴くだけでなく外見的に取り入れてしまったり、L.A.の女の子のようなサーフファッションを彼女たちは周りにどう思われようと、それを自分がカッコイイと思えれば何でも取り入れようとした「開拓者」だったんです。1990年過ぎにバブル景気は弾けましたし、彼女たちはそれを子どもながらに感じていたんでしょうけど、それが高校生のところまで影響が伝わらなかったということもあったんでしょう。

 カワイイと思えばなんだってイイ、自分がイイと思ったら突っ走る、それが「ギャル」なんです。

 トレンドが始まる時って、最初が一番濃度が濃い、MAXの状態で始まるんですよ。それがだんだん薄まって、ナチュラルになって周りへ浸透していく。オタクだってそうですよね。昔は隠していたけど、今では自分のことをオタクだって言うモデルもいますよ。今の子たちは「ナチュラルになって周りへ浸透した時代」に生きているんです。

■保守化と震災とナチュラル志向

―政治とファッションの関係

 ただ、今は洋楽を聴いている子たちは少なくて、海外に目が向かなくなっているような気がします。国内志向になると、ファッションも含めて保守的になるんです。

 90年代は政治も含めて「保守」に対する「革新」があって、ファッションも「コンサバティブ」に対して「コンテンポラリー」があった。守らないで攻める、周りよりも一歩先に新しいものを取り入れるという気運があったんですよ。革新しようとする時代であり、新しい文化を取り入れることがカッコ良かったんです。でも最近は政治同様にファッションも保守的な傾向にあって、新しいものを取り入れようとすることが減ってきているかもしれないですね。

―「H&M」「FOREVER21」の上陸

 そしてファストファッションの上陸も大きな原因となりました。安いし、流行のデザインだから、これでいいんじゃないか、という風潮になったんです。

 ブランドに対してのこだわりは2008年くらいまではありましたけど、今はそこまで意識されていませんね。その原因は「ネットで検索できるようになった」こともあると思います。例えばチェスターコートが欲しかったら、以前はお店を廻らないといけなかったんですが、今は検索すればたくさん結果が出てくる。その中からデザインが良くて、安いものを選ぶというようになったんですね。

 そしてファストファッションのブランド化もあります。「H&M」とか「FOREVER21」とか、たとえ安い服だとしても、ブランド名を言って恥ずかしくないモノになったんです。昔は安い服を着ていたら恥ずかしい気持ちもあったし、もしどこのものかを聞かれたら「どこのだったっけな?」と言ったりしてお茶を濁していたと思うんですよね。

―震災が「靴」を変えた

 それから2011年の東日本大震災も大きかったですね。ギャルだけではなく、女性ファッション全体が変わりました。特に顕著だったのが「」ですね。この頃からフラットなペタンコ靴がブームになったのですが、やはりそこには3月11日に歩いて家に帰ったことが大変だった、という実体験があったんだと思います。それまで女性はヒールの高い靴を履いて、少しでも足を長く、スタイル良く、美しく見せたいと思っていました。でもここでスタイル面での意識が変わったと思います。

「ペタンコがおしゃれ」というのは最初OL層だけの流行だったのですが、その後全体に広まっていったんです。それまでも本誌ではスニーカーのコーディネートなんてやっていなかったんですけど、今ではスニーカーやスリッポンなども多くなりましたね。

 昔は全体にヒールの高い靴だけだったものが、今では高いのも低いのもあって、買い物などで歩く時はフラットなもの、おしゃれして出かけるときはヒール、というようにTPOに合わせて使い分けるようになってきています。やはり人前に出る時は「スタイルいいね」と言われたいというのはありますね。ウチの読者モデルたちも現場に来るまではスニーカーで、来たら高い靴に履き替えるという人もいますよ。

―「足し算」から「引き算」という風潮が誕生

 昔は厚底靴がギャルの象徴で、常にキメキメでフルスロットルでしたけど、現在のファッションは全体的にカジュアルになっていて、抜くところとキメるところを分けていますね。「ヌケ感」という言葉もありますから。そして足し算だけではなく、ファッションには引き算もあるという風潮も生まれました。昔はとにかくひたすら「盛る」ことがファッションでしたからね。

 今は横並びで、女子高生などは制服志向なこともあり、目立つのは格好悪いという気持ちがある。だから「ナチュラルでよくない?」という風になっているんです。そういう人たちに向けて「オシャレを頑張りすぎるのはカッコ悪い、それでいいんじゃない?」というメディアがいわゆる「青文字系」の雑誌だと思うんです。

■世代によって「ギャル」の捉え方は違う

―「ねもやよ」世代の「ギャルの定義」

 そして「ギャルとはいったいどんな存在なのか?」という認定の仕方もあると思うんです。例えば渋谷を歩けば、ギャルっぽい子はいる。でも彼女たちは自分たちを「ギャルじゃない」と言うんです。ウチのモデルもそうですよ。元『egg』のモデルで、2014年から本誌の専属モデルとして活躍している「ねもやよ」こと根本弥生ちゃんなんかは、大人からしたら完全にギャルに見えるんですけど、彼女も「自分はギャルじゃない」と言います。なぜギャルじゃないのかと聞くと、「色黒くない」「まつ毛盛ってない」「爪長くない」と答える。これって、いわゆる「昔のギャル」が、彼女たち世代の「ギャルの定義」になっているんですよ。つまり見る人によって、そして世代によって「ギャル」の捉え方が違うんです。彼女たちも、自分がカワイイと思う格好をしていた恥ずかしい過去の写真を見せ合って「すっごいギャルっぽい」とか言って笑ってますよ。なので『S Cawaii!』でも、特集のタイトルに「ギャル」という言葉は使わないようにしているんです。

―ギャルは承継された

 そうした「外見」に関してはギャルはいなくなったと言えるかもしれないですけど、彼女たちの「マインド」は確実にギャルなんですね。人とちょっと違うこと、新しいことを取り込んだりするというのは「ギャル」ですから。そういう意味では、今もギャルはいなくなってない、絶対にいると思います。頑張る子はまだいるし、自分が可愛いと思うか思わないかでアイテムを選んでいるはずです。赤文字系のファッションは、男性にモテたいという目線を意識したものですが、「ギャルマインド」というのは男の人の目線を気にしない、むしろ同性に「可愛い!」と言ってもらうものなんですよ。

 そして髪を染めたり、つけまつ毛やカラーコンタクトを使う層が幅広い世代に広がって、今では40代や50代の人も使っているアイテムになっていますが、もともとそれらはギャルたちが可愛くなるために見つけてきたアイテムなんですよ。そういうギャルカルチャーは薄まりながらも、今でも彼女たちが流行させたアイテムが使われ続けているんです。「アムラー」の教祖だった安室奈美恵さんは現在37歳ということから考えても、ギャルであった世代は上に広がっているんです。だから「ギャルマインド」を持っている人は、どんどん増えていると思うんです。明るい髪の色やメイクで盛ったりするのは、確実に上の世代にも広がっているものですからね。

―ギャルは当たり前の時代に

 1995年頃に花開いたギャル文化というのは、その時代までは存在しなかった「異質なもの」だったわけです。でも今は20年経ち、すっかり定番になった。文化というのは10~20年くらい経つと、当たり前になるんですよ。ギャルは当たり前になったから、ブームを作らないものになっただけなんです。最近は髪を黒く染めることが流行していますけど、黒だからパッと見で目立たないだけで、これもギャル文化が形を変えて出て来たんだと思うんです。

■2015年はギャルカルチャーが戻ってくるかも?

―「ギャル」は死語になる?

 あと10年、20年経つと「ギャル」という言葉は死語になっているかもしれないし、もしかしたらなくなってる可能性もありますよね。でも「ギャル文化」は「普通なこと」と同じになっていて、今よりも文化として定着していると思います。

 そしてここ何年か、あこがれの外国人は「ミランダ・カー」だったんですが、ようやく2014年になって「アリアナ・グランデ」が憧れの人として名前が上がってくるようになったんですよ。なので、もしかしたら2015年は色々と変わっていく年になるかもしれませんね。海外に素敵な人が出てくると、ギャルカルチャーが戻ってくるのかな、とも思います。

 これから先、『S Cawaii!』でまた何か濃いものを作りたいですね。今はヘアやメイクには個性があるけど、顔を隠してしまうとどの雑誌もコーディネートが一緒で、小物などのディテールが違うだけなんです。トップスとボトムの組み合わせは変わらないんです。でも最近は他にないものを作るブランドも出て来ていて、それがトレンドに敏感なコたちにウケ始めています。なのでファッション、メイク、カルチャーで、ほかの雑誌とはちがう、すこしエッジがきいたものを見せていきたいですね。攻めていきます。

『S Cawaii!』はもともとカウンターカルチャーから始まったもの、マスではないものを見せてきた、コアでニッチな雑誌なんです。2015年からはSNSやウェブともっと連携させた展開をして、『S Cawaii!』にしかできないこと、そしてギャルカルチャーの中で信頼される存在であり続けたいですね。

取材・文=成田全(ナリタタモツ)