官能WEB小説マガジン『フルール』出張連載 【第69回】草野 來『びしょぬれラブ☆銭湯~番台から愛をこめて~』

公開日:2014/12/30

草野 來『びしょぬれラブ☆銭湯~番台から愛をこめて~』

 もっと知りたい、もっと触れたい。わかりあうのに大事なのは“ハダカ”のお付き合い!? 混浴から始まる優しいロマンス! 気象予報士の空井ゆらは、お風呂と天気を愛する臆病系女子。通っている銭湯の番台にいるイケメンだが愛想のない男性に苦手意識を持っていたけれど、忘れ物をきっかけに話すようになると、彼・円(まどか)は真面目で気遣いのできる人だと気づく。少しずつ歩み寄る二人は、「思い切ったことをしよう」という円の提案で、服を着たままお風呂に入ることになり……!? 

 柚子湯から顔を上げると、夜空に“月がさ”が浮かんでいた。

 ぼんやりと、白い光の円が月の周りを囲んでいる。

「明日は……雨になりそうね」

 かすれた声で背後に話しかけると、円(まどか)は後ろから私を抱きとめたまま、短く答える。

「晴れだよ。かさが薄い」

 もっとよく見ろ、というふうに、私の肩にのせている形のいいあごを、くい、と上向ける。

 たしかに、かさは薄くて切れ目があって、内側には星が見えた。空気も乾いている。冬の夜風が火照(ほて)った肌に心地いい。

 ほほに指先を添えられて、もう一度キスがしたいんだな、と思った。私もしたかった。顔を後ろに傾けて、どちらからともなくそっと、唇を重ねあわせる。

 しっとり湿って、やわらかいキス。ここのお湯のようにあたたかい。

 いま自分たちが、かなり非常識なことをしているということも忘れてしまいそうになる。そんなキスだった。

 まさか、服を着たまま露天風呂に入っているなんて。それも男性と。着衣のまま混浴をして、キスをして。抱きあって互いのからだをさわりあっている。

 お湯の中で服の上からふれられるのは……妙にいやらしい感じがした。

 水気を吸って貼りつくブラウスに、骨ばった手が当てられる。長い硬い指で身が詰まっているかどうか確認するように押さえられ、胸のふくらみが大きな手に包まれる。

 やわやわと、手のひら全体で、ゆるやかに揉まれて撫でられて。もどかしさに似た快感に、わずかに身をくねらせた。

「俺、へた?」

 すかさず尋ねられて首を横に振る。

「ううん……とてもいい」

「よかった」

 背中に彼の胸を感じる。弾力のある濡れた熱が伝わってくる。熱と鼓動と昂ぶりがぴたりと当てられている。

 まさぐられながら円の肩に頭をもたせかけると、再び月がさが目に入った。月を縁取る白い円。きれいな円。ふと思い出す。彼と最初に話をしたときにも、空にはかさが浮かんでいた。けむった秋空にぼんやりと浮かぶ太陽に、光の円がかかっていた。

 

 お風呂の調子が悪くなったのは、これから本格的に寒くなろうという十一月の頃だった。

 マンションの管理会社へ連絡すると修理サービスはただいま順番待ちと言われ、やむなくしばらくの間、お風呂屋さんへ通うことになった。

 幸い、歩いて十分ほどのところに銭湯を見つけることができた。「ヱビス湯」というレトロな名前の、木造、瓦葺(かわらぶき)の豪壮な建築様式で、広い敷地に高い煙突。銭湯というよりお寺か神社のような外観で、入るのにやや勇気が要りそうな感じではあるけれど、この界隈で銭湯はここ一軒しかない。駅と反対側にあるせいか、この町にこんな立派なお風呂屋さんがあるなんて知らなかった。

 知らないといえば、銭湯自体、私には初体験だ。

 十九歳から一人暮らしをはじめて十年。それなりに引っ越しの場数を踏んできてはいた。防音とか防犯とかキッチンの使い勝手とか、部屋を決めるとき、譲れない条件というのは人によってさまざまだろう。

 私の場合はお風呂だった。

 たっぷりお湯を張った浴槽にのんびりと浸かる幸せ。それに勝るものはない。

 手足を伸ばせるくらい広いバスタブと、壁がつるつるの洗い場。新品のシャワー設備。そこが気に入って借りた部屋なのに、肝心のお湯が出なくなるなんて。

 そういうわけでヱビス湯へ通うことになったけれど、暖簾(のれん)をくぐるや外見とは対照的にモダンな中身に意表を突かれた。

 広々としたフロントロビー。浴室には大浴槽のほか電気風呂、サウナ、ジャグジー、それに檜(ひのき)造りのアロマ風呂まである。湯気がこもらないように吹抜(ふきぬ)け型になっている 天井は、圧倒されそうなほど高い。

 内湯の横には露天風呂があり、石造りで雰囲気があるうえにこれまた広い。石壁で囲まれている ので外から見られる心配もなく、夜空を眺めてゆっくりお風呂が楽しめる。そばに植えられている楓(かえで)の木がまた風情があって、赤く染まりかかった葉がはらりと落ちて、お湯にぷかぷか浮かんでいるのもすてきだった。

 

2013年9月女性による、女性のための
エロティックな恋愛小説レーベルフルール{fleur}創刊

一徹さんを創刊イメージキャラクターとして、ルージュとブルーの2ラインで展開。大人の女性を満足させる、エロティックで読後感の良いエンターテインメント恋愛小説を提供します。

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