電子化時代の中で「古書」が紡ぐ物語――「ビブリア古書堂の事件手帖」

文芸・カルチャー

2015/1/6

太宰治の珍しい書き込みがあるという『晩年』の初版本。50年前のある出来事の謎を解く鍵はすべてそこにある――。

ビブリア古書堂の事件手帖』の最新6巻が発売となった。TVドラマ化され、累計600万部を超えた本作は、読書好きのみならず世の中によく知られた作品となった。古書を巡る様々な事件。鎌倉を舞台にその謎を鮮やかに解明する篠川栞子と、そのパートナー五浦大輔の活躍は多くの読者を惹き付け、物語で古書として取り上げられた作品が、実際に販売部数を伸ばしたり、復刊されたりといった現象も起こっている。夏目漱石、太宰治といった文豪の名作から、手塚治虫や藤子不二雄のマンガ、彼らが世に知られる前の貴重な作品など、多彩なタイトルがこれまで取り上げられてきた。

作者の三上延氏は電撃文庫でデビューし、いわゆるライトノベルを数多く手がけてきた人物だが、得意とする実直な情景描写は本作で余すところなく発揮されている。登場する作品も綿密な調査を行った上で取り上げられ、古書についてのトリビアが次々と登場する。読書好きでも唸らされる場面もあるはずだ。取り上げられた作品にも注目が集まるのも頷ける。

ビブリア古書堂の事件手帖』は推理小説の原典『シャーロック・ホームズの冒険』を彷彿とさせる。事件の関係者に粘り強く話を聞き、注意深い観察によって推理を進める古書マニアの栞子と、「読書恐怖症」で本がほとんど読めないが、時に彼女に思いもよらない視点を与える大輔の関係は、ホームズとワトソンそのものだ。

1つ違うとすれば、大輔が栞子に思いを寄せているところだろう。本や言葉の魅力に取り憑かれた栞子は、彼女の母と同じようにいずれその世界に全てを捨ててその世界に引きずり込まれることを恐れている。読書を苦手とする大輔はそんな彼女と現実をつなぎ止める存在だが、古書を巡る物語を通じて2人の関係は徐々に変化していく。最新刊でも更に深まる2人の関係やその恋の行方も気になるところだ。

最新刊で2人が巻き込まれるのは、太宰治の古書を巡る事件。第1巻で栞子が命の危機にさらされるきっかけとなった、太宰治の『晩年』。その犯人から再び初版本を探して欲しいと依頼されるところから物語は始まり、『走れメロス』や『駈込み訴へ』なども交えながら彼らの祖父母の世代まで遡る50年前のある出来事の謎へと迫っていく――。

ビブリア古書堂の事件手帖』に描かれるように古書は単に古い本ではない。作者のサインや書き込みがあったり、その本の所有者に何らかの因縁があったりと、そこに記された物語の外側にさらに物語が重ねられている存在なのだ。そんな古書は珍重され、時に莫大な価格がつけられることもある。栞子と大輔はその「物語」を丹念に紐解いていく過程で、彼ら自身の因縁にも気づかされていくことにもなるのだ。

電子書籍が徐々に普及している中、人から人へ受け継がれる古書の存在に再び光が当たっている。誰かに貸したり譲ったりすることが今のところ難しい電子書籍に対し、紙の本は書き込みや、1冊1冊がそれぞれに持つ由来が別の価値を持ち、古書として受け継がれて来た。『ビブリア古書堂の事件手帖』は、そんな紙の本の魅力にも再び気づかせられる作品とも言えるだろう。

6巻の最後は解決した『晩年』を巡る謎が、栞子や母を巡る関係にさらに影を落していく様が描かれる。本を読めない主人公大輔はこれまで栞子に助けられてばかりだったが、今度は彼がどう彼女ら親子の問題に決着点を用意できるのか、さらなる展開に期待せずにはいられないのだ。

文=まつもとあつし

■『ビブリア古書堂の事件手帖』(三上延/KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)