「生殖に適した年齢はいつの時代も変わらない」「妊娠に安定期はない」 産婦人科医が語る「産活」の真実

出産・子育て

更新日:2015/1/8

産婦人科医の丸田佳奈さん

「妊娠に安定期はない」は現場の常識!

 本書の中では、一般的に言われている妊娠期間中の常識が、実は間違いだったという例が52も書かれている。その中で、一番インパクトがあるのは「安定期はない」ということかもしれない。これは知らない人が非常に多そうだが…。

「毎日のように診察で聞かれるのが“もう安定期に入りましたか”とか“安定期に入ったら何をしていいですか”というものなんですね。でも実は安定期という言葉は医学的にはなく、あくまでも妊娠初期の流産をしやすい時期と、後期の早産をしやすい時期を除いた時期があるだけなんですよ。もし妊娠初期や中期に切迫流産になったら、そこからずっと安定した期間なんてないですしね」

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 では、ここまで安定期という言葉が一般的になってしまったのはなぜなのだろう。

「担当医が“症状が少し落ち着いたので○○して良いですよ“と許可を出してくれたのを、安定期と捉えてしまった可能性が高いですね。ですからこの時期なら何をしても良いというわけではないですし、最近流行りの“マタ旅”(妊婦が旅に出ること)も、個人的には止めたほうがいいと考えています」

 また、安定期という確実なものはないが、何をやっても流産しない人はしないし、する人は何度も繰り返してしまう人もいる…という個人差はあるのだそう。

「流産しないかどうかを妊娠中に見極めることは難しく、結果的に何をしても大丈夫だったというのが最後に分かるだけなんです。ですから誰かがどうだったからではなく、自分はどうかということを必ず担当医に聞いて、指示を守って欲しいですね。あなたの経過を一番分かっているのは担当医ですから」

“妊娠したら自転車に乗ったほうがいい”は間違い

「妊娠したら自動車より自転車に乗ったほうがいい、というのも間違いですね。自転車はお腹に力を入れて乗りますし、何よりお腹が大きくなってから乗るとバランスを取るのが難しく、転倒する可能性が高くなります。ほかにも、マルチサプリにはビタミンAが入っていて摂りすぎると赤ちゃんに脊椎の異常が出てしまうので注意を。また、妊婦さんのお母さん世代の人から“安静にしてたくさん食べて”と言われて、太り過ぎて問題が出るケースも。昔と今は栄養事情が違いますし、妊娠に対する常識はかなり変わってきていますから、やっぱり担当医に指示を仰いでほしいんです」

 また妊娠中は、嗜好品の取り方についても気になるところ。

「基本、タバコは1本でもダメ。家族には違う部屋で吸ってもらいましょう。アルコールは少量なら良いとも言われますが、安全な摂取量が確立されていませんし、摂り過ぎは赤ちゃんに異常が出るのが分かっているので、やっぱりダメです。カフェインは適度なら大丈夫」

 このあたりも、本書で詳細に書かれているので、ぜひ参考にしてほしい。

「でも、あまり過度に敏感になるのも良くないんですね。また、周りから過度にお姫様扱いされると、わがままな“妊婦様”になってしまうことも。それで無事に出産を終えると、その後に待っているのは子育てという我慢の生活。妊娠期間中はお母さんになる準備期間、母性を育てる期間でもあります。じっくりと独身の自分から母になって欲しいですね」

“ネットで検索”はNG! 今どき妊婦に、これだけは伝えたい!

 本書を書き終えた今、今どき妊婦に丸田医師が一番伝えたいこととは何だろうか。

「とにかく、正確な情報を仕入れて、何かあった時のためにシミュレーションしておいてほしいんです。自分がどうなるかは誰にも分からない、だからこそ情報を仕入れておいて、もしもの時に誰を呼ぶかまで決めておいてほしい。でもその際、インターネットで検索…は間違った情報が多いのでNGです。必ず専門家に聞いてくださいね。私たち産婦人科医はガイドラインにのっとって一人一人にベストな治療法を提案しているので、もし意見を聞けないと思うのなら、自分の信頼できる医師や助産師を探して、言うことを全部聞けるところに行ってほしい。そうしてハッピーな妊婦生活=産活を送ってほしいですね」

 妊活が市民権を得てから久しい。これからはその後に10カ月も続く妊婦生活を安心して過ごすためにも、本書を指南書としてぜひ手元に置いて欲しい。

取材・文=増田美栄子