「遺作になることを望まれている」樹木希林が元ハンセン病患者を演じる映画『あん』制作発表会見レポート

映画

更新日:2015/1/10

 2015年注目の1作がある。映画『あん』だ。
「全身がん」を公表しながら活動を続ける樹木希林が、元ハンセン病患者の主人公を演じる本作。監督は、日本人女性映画監督として初の快挙となる、フランス政府から贈られる芸術文化勲章“シュバリエ”を受賞したばかりの河瀬直美。河瀬監督は過去にも、カンヌ国際映画祭やウラジオストク国際映画祭での受賞歴があり、海外での評価も高い、いま注目の女性監督だ。

『あん』は、作家でミュージシャンのドリアン助川氏が手がけた同名小説が原作。あることがきっかけでムショ暮らしを経験した後、どら焼き屋「どら春」の雇われ店長となった千太郎。ある日、その店の求人募集の貼り紙をみて、千太郎にその店で働くことを懇願する老女、樹木希林演じる“徳江”が現れる。徳江は、ハンセン病を患った過去を持ち、いつしかそのことが、近所の噂になってしまう。徳江がつくる「粒あん」の美しさにお客が集まりお店が軌道にのった矢先だった。次第に客足が遠のき、「どら春」の状況を察した徳江は、清く店を去ることを決める。それ以来、徳江は姿を見せることはなかった。いったい徳江はどこへ行ってしまったのだろうか…。

 『あん』の制作発表会見は、2014年12月に行わた。和菓子職人の衣裳で登壇した樹木は、「(こんな盛況は)トム・クルーズの来日以来らしい」と大勢の報道陣を笑わせ、体調良好な姿を見せたが、撮影中、明日は撮影できるのか、と相当しんどい日もあったようだ。樹木は、「(関係者が)“樹木さんの遺作として売りたいんじゃないか”」と告白。「遺作になるのを望まれているので、次のことはいいだせない。もちろん決めていません」と冗談めかした。

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 撮影前には、あずき作りを勉強するため、製菓の学校に通い、元ハンセン病患者という役作りのため、療養施設に赴いたという樹木。「全身全霊かけてあなたの映画はやろうと思った」「役者であったら、一度は河瀬さんの作品をやったらいい、おせじじゃない」と語るほど、河瀬監督への信頼は熱い。一方、河瀬監督も、「私はつつみかくさず正直に気持ちをまっすぐ希林さんになげてきた」「全身全霊で現場にきてくださっているなと思った」と、お互いに尊敬の念をもって撮影に挑んだことがうかがえる。「モニターをみて、涙が止まらず、次のシーンの撮影ができないこともあった」と撮影中のエピソードなどを語り、最後に、河瀬監督は「永遠にスクリーンに樹木希林、徳江がきざまれていると思って頂ければ」と熱い言葉でしめくくった。

 はたして、樹木希林河瀬直美という強力なタッグのもと実現した映画『あん』は、どんな名シーンを私たちに届けてくれるのだろうか。現在、フランスとドイツで編集作業のまっ最中。

 映画『あん』は、2015年6月公開予定だ。

『あん』
■2015年6月全国公開
■配給:エレファントハウス
©映画『あん』製作委員会