【通勤ラッシュは東京だけ!?】東西の通勤電車の違い

社会

更新日:2015/1/21

 朝のラッシュ時に電車で座れるか否か、東京で会社勤めをしている者にとっては、切実な問題だ。ライナー券を購入したり、確実に座るために始発電車の列に並んだりと、座席獲得競争に勝つためには、知恵と工夫を凝らさねばならない。

 「通勤=混雑する電車にすし詰めになって立った状態で運ばれていくもの」という認識は、実は東京特有のものである。実家が地方だったり、転勤で他の都市に住んだ経験を持っていたりする人なら、「当たり前でしょ?」とツッコミを入れるかもしれない。しかし、東京を中心とする通勤圏しか知らない人間にとっては、これが普通の通勤だ。『こんなに違う通勤電車』(谷川一巳/交通新聞社)は、そんな各人の常識に違った視点を与えてくれる1冊だ。

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 本書は、関東、関西、中京圏ほか主要都市、さらには海外の、通勤電車の車両や鉄道乗り入れ状況を比較したもの。ここから「座る」「立つ」をポイントに、東京と大阪の通勤電車の車両の造りを比べてみよう。

 まずは、東京の通勤事情がよく表れた例から。JR山手線では、各車両の片側にドアが6つ、座席は折りたたみ式で朝は折りたたまれていて使えない列車が2010年まで存在した。

 これは、片側に4ドア、7人掛けのロングシート(通路を向いて座る座席)という通常の車両設計と比べると、1両当たりの運べる人間の数が格段に多い。2008年の東京メトロ副都心線開業で山手線内の混雑が緩和されたため、現在では姿を消しているが、いかに多くの人間を運べるかを考えた東京ならではの車両設計といえる。

 一方、大阪の特徴は、座れる人の数を少しでも増やすことだ。通勤時間帯はさすがに混雑を免れ得ず、乗客は立つことを覚悟しなければならないが、クロスシート(進行方向を向いて座る座席)の車両が多く、1車両当たりの座れる定員が多くなるように設計されている。もちろん昼間も、大阪では「座る」ことにこだわる向きがある。JR西日本が採用している新快速用車両223系と225系には、ドア部分に補助椅子があり、ラッシュ時以外は座ることができるのだ。

 また、関西圏を走る京阪電気鉄道では、ラッシュ時の混雑対策として片側が5ドアでロングシートの車両(通常車両は3ドア)を運行しているが、通勤時間帯が終わると5つのドアのうち2つを開かずの扉にし、その扉前のスペースに天井から座席を降ろす。つまり、ラッシュ時には座席が天井に収納されるという凝った造りなのだ。

 こうして見ていると、「大阪の鉄道会社が座ることを重視するのは、東京より人口が少ないからでは?」と思ってしまいがちだが、要因は他にもある。

 1つは、「人の流れ」。東京は通勤時に人々が一斉に首都圏から東京23区内へ向かうが、大阪では関西圏から一斉に大阪中心部へ向かうわけではない。関西圏には、大阪以外に京都、神戸といった人口集中地区があり、奈良、和歌山などを含め、それぞれが独自の文化と求心力をもっている。東京のように、中心地からベッドタウンが同心円状に広がっているわけではないのだ。

 2つ目は、関西圏では鉄道会社の経営競争があり、それぞれの会社が乗客へのサービス向上に努めてきたという歴史だ。京都―大阪―神戸間を阪急電鉄、京都―大阪間を京阪電気鉄道、大阪―神戸間を阪神電気鉄道と、3社が同じように結んでいるので、乗客はどの電車に乗るか選択ができる。乗客は当然、座れる可能性の高い快適な鉄道を選ぶので、各鉄道会社は座席数の多い快適な車両を競うというわけだ。

 東京も鉄道会社は1つではないが、JR、私鉄、地下鉄が相互乗り入れを行っており、一地区の客を取り合う構造にはなっていない。目的地の駅がどの路線にあるかで、乗る電車は自動的に決まってしまうのだ。

 ところ変われば、電車も変わる。電車が変われば、通勤も変わる。毎日の通勤事情にも、土地の歴史あり。押し合いへし合いの通勤ラッシュも、東京の現在だからこそ味わえる歴史の1ページなのだと思うと、毎日の電車が少し愛おしく感じられる…かもしれない。

文=奥みんす