キョドる、プチプラ、お祈りメール…辞書の編纂者が語る「本当は載せたかったことば」

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

日本語は“生き物”で、日々新しいことばが現れてはその大半が数年以内にすたれていくという、やっかいな言語である。そんな側面を持つ日本語だからこそ、新しく辞典を作ったり既存の辞典を改定したりするためには、編纂(へんさん)者は辞書に載せたいことばとその用例を文芸書やツイッター、バスの中の大学生の会話などさまざまな媒体から探してくるという。その数は改訂時で1万数千語にのぼるというから、大変さは計り知れない。そうして集められたことばたちは、最終的に辞書に採用するか否かを編集会議で決められ、結果として、多くのことばが不採用になるという。『辞書には載らなかった不採用語辞典』(PHP研究所)は、2014年1月に第7版が出た『三省堂国語辞典』の編纂者の1人である著者・飯間浩明氏が、そうした経緯を経て惜しくも不採用になってしまった膨大な数のことばの中から、「魅力的なことば」を拾い上げてユーモアたっぷりに解説する異色の辞典である。

通常、辞書というと、ことばとその用例を羅列して掲載しているが、本書は少し趣が違い、ことばの専門家である著者がワインのソムリエさながらに、用例そのものよりも、その用例のどこが注目点なのかを解説している。また「不採用になりそうだったが結局は採用されたことば」も載っている。その結論にいたった経緯が解説されているところも、とても興味深いのだ。

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さてそれでは、以下に挙げたことばたちの意味が分かるだろうか? どれも辞書に載らなかった不採用語だが、分かるヒトは分かるものばかりだ。

【キョドる】
このことばは「挙動」という名詞を活用させた語だという。本書によると1990年代半ばにはすでに週刊誌などにも活字として載っていたそうで、挙動不審な行動をしていることを指している。この種のことばは「牛耳る」(牛耳を取る)・「皮肉る」(皮肉を言う)など昔からあり、「チンする」・「サボる」・「パニクる」・「愚痴る」などはすでに採用されているので、「採用してもよかった」とか。次回の改定ではきっと採用されるのだろう。

【プチプラ】
数年前からよく耳にするようになったこのことばは、ファッションに敏感な女性なら意味が分かるのではないだろうか。ご想像通り略語なのだが、元は「プチプライス」ということばで、プチ(小さい)はフランス語、プライス(価格)は英語。著者いわく「英仏の言語を話す人にも意味が分からないでしょう。さらにこれが略されて(中略)いっそう難解になって、誰にも分からなそうです。それでも一般にはよく使われています」とか。

【お祈りメール】
就職希望者に対する企業の不採用通知の最後に「今後のご健闘をお祈り申し上げます」などと書かれたメールが届くことを揶揄したことばで、就職活動がIT化された2010年頃から使われるようになったそうです。就職難の折、多数の企業にエントリーしても次々届く「お祈りメール」…まさに「あの慇懃無礼な感じが神経を逆撫でするんですね」(本書より引用)。

本書を読むと、言い間違いから派生することばがかなり多いことが分かる。例えば「エステティシャン」から「ティ」が抜けてしまった「エステシャン」は、最近かなり頻繁に聞くようになってきたが、これは日本語に起こりがちな“同音・類音の脱落”という現象によってできたことばなのだとか。ほかにも「落とし込める(貶める?)」、「思いよがり(“思い上がり”と“独りよがり”が混ざった?)」、「軽々しく―持ち上げる(本来は“軽く―”と言うべき)」…など、「これからの日本はこれで大丈夫?」と心配になるような誤用が多数解説されている。しかし言い間違いだけでなく、同時に「お祈りメール」のように現代らしいことばもたくさん生まれてきているのだとか。この多様な変化こそ、日本語の特徴なのかも知れない。

文=増田美栄子