チャラくても勝ちを狙えた、箱根優勝 青山学院・原監督の“ワクワク大作戦”の秘密【スポーツアナウンサー坂上俊次さんインタビュー】

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更新日:2015/1/30

人生の回り道は、実は武器や呪文に満ちている

「この本の取材を通して改めて感じたのは、名指導者たち本人は、覚悟を決めて回り道に挑み、結果、経験やノウハウをつかんでいる。しかし、決して同じ苦労を“選手には強要していない”ということ。得たノウハウをふまえて、極めて合理的な方法を選手に提示しているのです。声を荒げるよりも、回り道の中でつかんだ技術と心で、押したり引いたり、ときには振ってみたりもしながら、選手たちを動かしている気がします。

 本書の後半で登場する、広島東洋カープの投手コーチ兼分析コーチの畝龍実(うねたつみ)さんは、ご自身の投手としての1軍での通算成績は、実は7試合0勝0敗なんです。12球団を見回しても、0勝0敗の1軍コーチはいないんですよね。では、実績って何なのかと言ったら、畝コーチにとっては、裏方として21年スコアラーをされていたときの、選手とのやりとりにあったんです。

 PC環境の整わない時代に相手チームをデータと映像で丹念に分析し、コミュニケーションを駆使しながら選手にアドバイスし、寄り添い、支えてゆく。自分が何かひとつデータを提供したことで、選手が打てるようになったり、なかなか前を向いて頑張れなかった選手の練習につきあう中で、選手が前向きに取り組むようになったとか。そのひと場面、ひと場面が、自分にとっての実績だとおっしゃるんですよ。勝利した数ではなくて、人に感謝された笑顔の数とか、人の人生をちょっと変えた数とか。そんな視点もあるのだなと、そのお話が印象的でしたね。回り道のように思えても、くさらず、誠心誠意で裏方に専念されたその結果、昨年、現役引退から21年で1軍投手コーチ兼分析コーチに就任されたのです。このことは、球界に新たな風を吹き込むのではないかと感じました。

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 思うに、人生において順調に最短距離で行けてるときは、それはそれでよしじゃないですか。しかし、意に反して、人生で遠回りな道を進むことになってしまったとき。“苦しい”とか“もう、だめだ”と諦めるのではなく、ちょっと視点を変えてみると、その回り道には、いいものがたくさん落ちているような気がするんです。ドラゴンクエストにたとえるなら、武器や呪文や魔法がいっぱい落ちている状態ですよ。最短距離では行けなかったとしても、“ああ、だめだ”と下を向くのではなくて、落ちてる武器やノウハウを拾い集めた人のほうが、のちのち最短距離をとった人を追い抜くことだってあるんじゃないかという気がします。

 本書で取材した9人の優勝請負人の方たちの言葉は、次世代の人にとっての、宝物に満ちています。最短距離に越したことはないですけど、回り道も決して捨てたもんじゃない。今、もしこれを読んでいる方が回り道の中にあるとしたら、今後の人生に役立つ呪文や魔法が、そこに落ちてませんか? ピンチのときこそ、落ち着いて回りを見回してみてほしいなと、思います」

取材・文=タニハタマユミ