「女の子」の愛するものがわかる、江國作品ベスト5

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/28

  多くの女性ファンを持つ人気作家・江國香織。江國作品の愛読者であり、江國さん本人への取材経験もあるライター・岡田芳枝さんにその魅力を訊いた。

「友人がこんなことを言った。『夜の散歩が好きなんだけど、もともと好きなのか、江國さんの本の影響なのか、わからないんだよね』。この話に私は深く頷く。夜の散歩はもちろん、ひとりきりのピクニック、お風呂で飲むお酒――好きなことを挙げると、江國作品の主人公たちが愛するものと重なるのだ。この無意識に身体化している現象は、憧れの気持ちよりも、“寄る辺なさへの共感”が起因していると思う。恋人がいても、家族がいても、ひとはどうしようもなくひとりで生きていくもの。そんな江國作品に流れる孤独への諦観と勇敢さに感応し、ひとりきりを愉しむ行為を慈しんでしまうのではないか?と。

 ボーヴォワールは『人は女に生まれるのではない、女になるのだ』と言った。女としてかたちづくられる最中に、ひとりきりを愉しむ方法を嗜めたこと。それを誇らしく感じている元〈女の子〉は、きっと多いはずだ。わたしも、そんな大勢のひとりである」(岡田さん)
 
 そんな岡田さんが選んだ、〈女の子〉が愛するものがわかる江國香織作品ベスト5(文庫)は、以下の通り。
 
1.〈役に立たないこと〉の豊かさを味わう
『ホリー・ガーデン』新潮文庫 500円
幼なじみである果歩と静枝を軸に、恋愛や友情を日常の風景のなかに滲ませた長編。あとがきに〈余分なこと、無駄なこと、役に立たないこと。そういうものばかりでできている小説が書きたかった〉とあるが、果歩の“ひとりきりの過ごし方”の細やかな描写は女の子的素養の真髄。作中に引用される尾形亀之助の詩も女子度高し。

2.孤独を知る、憧れの「おんなのこ」
『すきまのおともだちたち』集英社文庫 580円
新聞記者の「私」が道に迷い、入り込んでしまった場所で出会ったのは、おしゃべりなお皿と一緒に一軒家で暮らす「おんなのこ」だった。ファンタジックでかわいらしい物語の底に潜む、「おんなのこ」の何も変わらずに存在し続けることの悲しみと達観がずしんと響く。こみねゆらによるイラストも郷愁を誘う、すてきな一冊。

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3.ちなみにコアントローはオレンジ味でした
『きらきらひかる』新潮文庫 420円
「アル中」の笑子と「ホモ」の睦月、その恋人の紺。思いあうがゆえ、傷つき、傷つけられる切ない関係が向かう先は――。コアントロー味のシュークリーム、アイロンがけしたベッドシーツ、笑子がつくるミントジュレップ、「紫色のおじさん」と呼ぶセザンヌの自画像……登場するアイテムの一つひとつが絶妙すぎて悶絶します。

4.失うことの官能さに、身をひたす
『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』集英社文庫 480円
「泳ぐのに安全でも適切でもない」人生の中で、蜜のような一瞬を生きる女性たちの、凛々しく、やるせなく、幸福な珠玉の物語10編を収録した短編集。一冊を通し、“失う”ということは、もしかするともっとも官能的なことなのかもしれないと感じさせられる。あと、不倫の短い逢瀬で食べるエクレアの、なんと甘美なこと!

5.作品世界を輝かせる、「もの」への眼差し
『とるにたらないものもの』集英社文庫 440円
レモンしぼり器、小さな鞄、固ゆで玉子、食器用スポンジ……とるにたらないけれど欠かせないもの、気になるもの、愛しいもの、忘れられないもの。小説の作品世界をいつも輝かせる江國流“ものもの”への眼差しが満喫できるエッセイ集。読後は、使い古された輪ゴムさえ凛として見えてしまうはず。
 
(ダ・ヴィンチ11月号「江國香織の“女の子はこれでできている文庫”ベスト5」より)