山田孝之が引っ越すほど惚れ込んだ! マンガ『ウヒョッ!東京都北区赤羽』、地元では『ONE PIECE』よりも売れたとか!?

マンガ

更新日:2015/10/9

 東京23区の中で、転入者から「全く憧れられない区」が2つある。ひとつは僕の生まれ育った江戸川区、そしてもうひとつが北区。東京特有の区部名称でそれぞれ城東・城北とされる地区に存在し、江戸川区は城東の中でも極東、北区は城北の中でも極北に位置している。

 希望に燃えて上京してくる人たちの中に、「東京出たら絶対平井に住みたい!」とか、「なにがなんでも王子に部屋を借りる!」なんて言う人は変わり者か特殊な事情のある人のどちらか。悲しいことに、23区でありながらその存在を半ば「ないもの」とされているに等しい、悪条件下に晒されながらも共に頑張る2区。ところがここ数年、この2区の間に「格差」が生じてきたのではないか? という気がしてしょうがない。

advertisement

 原因は『漫画アクション』(双葉社)にて連載中のエッセイ漫画『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』の存在。デビュー後に連載を失い、板橋区の実家にいるのがいたたまれなくなった、という漫画家・清野とおる氏が隣町の北区赤羽に引っ越し、そこでのあまりにユニークな体験を漫画にしたのがそもそもの始まり。携帯サイトで「東京都北区赤羽」のタイトルで連載されている頃からカルト的な人気を得ていたらしいのだが、メジャー誌である『漫画アクション』に移ってからさらにブレイク。登場人物のほとんどが存命の実在する人物であるにもかかわらず、全員がティム・バートンの映画のキャラクターよりもファンタジック、というある意味で「最強の設定」は瞬く間に世間に浸透。挙げ句の果てにこの漫画に感銘を受けた俳優・山田孝之が赤羽に住み、その模様がドキュメンタリードラマ化される、という凄まじい状況に。この相乗効果で現在赤羽の知名度は上がる一方である。

 最新巻である第4巻では、またもやディープでバラエティに富む赤羽ヒューマンドラマが12篇・オールカラーで掲載されている。他の作品であればそろそろネタ切れが心配される頃だが、こと赤羽に関しては全く問題なさそうな気配。そして相変わらず脱力系ながら妙に書き込みの細かいリアリティ溢れる絵柄に、作者の「赤羽愛」を感じずにいられない。素材が素材だけに、一歩間違えば住民からクレームがあってもおかしくない作品なのに、地元赤羽では『ONE PIECE』よりも売れている模様。地域住民もきっとその「赤羽愛」を敏感に察知してるんだろうなぁ、と。そういう意味では、凄く幸せな作品なのかもしれない。

 ところで! 我が江戸川区にも小岩という赤羽に負けないディープな街がある。怪しげな施設には事欠かないし、ユニークな人間も多数居る筈。返す返すも惜しいのは、清野氏の実家が江東区とか葛飾区になかったこと。いたたまれなくなって引っ越した先が小岩であれば、今我が世の春を謳歌する北区赤羽の立場はそのまま江戸川区小岩のものであったと思うと、残念で夜も眠れない。勝手に同盟国だと思っていた北区が、どんどん遠くに行ってしまうと考える、寂しいやら悔しいやら…。清野氏と同じくらいセンスのある作家さんが、小岩を掘り下げてくれることを切に願う。思いっきり他力本願だけど。

文=サイトウタクミ

■『ウヒョッ! 東京都北区赤羽』(清野とおる/双葉社)