新垣結衣主演で映画化! 誰にも言えない悩みを歌にのせる合唱部の青春

文芸・カルチャー

2015/2/6

繊細さは充実した日々をつくるための源なのかもしれない。センシティブにあれやこれやと仲間たちと思い悩み抜いた時間こそが、光り輝く青春を作り出していた。そんな時代から遠く時を隔ててしまったとしても、今、思い出してみてはどうだろう。あの頃、自分は何に苦しみ、何に悩んでいたのか。何に胸ときめかせていたのか。昔の自分、青春時代の自分に、今のアナタはどんな言葉をかけたいだろうか。

中田永一著『くちびるに歌を』(小学館)は、私たちにそんな胸のときめきや苦しみを思い起こさせてくれる青春小説だ。2月28日には新垣結衣主演で映画化されるこの作品の舞台は、長崎県・五島列島のとある島の中学校。雄大な自然の中で学生生活を送る少年少女たちが合唱コンクール出場のため奔走していく姿は圧巻だ。

「合唱部」と聞いてどんなイメージを持つだろうか。運動系の部活に比べて、「地味」「ダサイ」なんて印象を持つ者もいるだろう。それはこの物語の中学校でも同様だ。もともと女子しか部員がいない目立たない部活動だった。だが、合唱部顧問が産休に入り、誰もが目を奪われる美貌を持つ臨時教員・柏木ユリが指導に入ると、生徒たちは一気に色めき立ち、「合唱部に入部したい」という男子生徒が続出する。柏木はNHK全国学校音楽コンクール長崎県大会に男女混声合唱での出場を決めてしまうが、以前から合唱部に所属していた女子部員からすれば、柏木の美貌目当てに入部した男子生徒の存在は受け入れ難い。彼らは無事に合唱コンクールに臨むことはできるのか。男子生徒と女子生徒は分かり合うことができるのか。

生徒たちが出場する合唱コンクールの課題曲は、アンジェラ・アキの名曲『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』。この曲をモチーフとしたこの小説では、あらゆる場面で「手紙」がキーを握っている。柏木は、「誰にも見せる必要はないから、15年後の自分に向けて手紙を書け」と部員に宿題を出すが、手紙を書くことで、登場人物たちは自身の抱える秘密や悩みと向き合い始める。

たとえば、桑原サトルは、自閉症の兄との関係に悩んでいる。兄のことを心から慕いながらも、周りには、兄の存在を自然と隠してしまう自分。合唱部に入るまでは、常に周囲と距離を置く、目立たない少年だった彼が友人と呼べる存在を見出す中で、自分の人生について考え始める。いつもひとりぼっちだった彼を合唱はどう変えるのだろうか。

女子たちも同じようにそれぞれの悩みを抱えている。愛人を作って島を出て行った父親のことが許せず、それがきっかけで男性を極度に嫌うようになってしまった仲村ナズナ。誰に対しても良い顔をしてしまう自分のことを嫌いながらも変わることができない長谷川コトミ。彼女たちは、男子と向き合い、合唱に取り組んでいく中で、次第に自分の悩みとも向き合っていく。

「今までやって来たことを、悔いなく出し切るばい!」

男女の対立。ラブレター。愛の告白。サトルが巻き込まれたある事件。コンサートの練習と、ある計画を胸に迎えた本番…。島のあたたかな風土に、生徒たちの方言が優しい。最初は対立していた女子と男子が次第に互いの良さに気が付き始め、かけがえのない友情、ときには恋心を抱き始める。すると、どうだろうか。彼らの合唱の音色すら変わって聞こえてくるのだ。生徒たちの視点で多角的に描かれたこの小説は、物語が進むにつれて、次第に心地よいハーモニーを奏で始める。この本は読む音楽。今一番読むべき、キラーチューンがここにある。

文=アサトーミナミ

■『くちびるに歌を』(中田永一/小学館)