なぜBABYMETALなのか。『ヘドバン』編集長・梅沢直幸さんインタビュー

音楽

更新日:2015/2/6

現場を取材する中で感じた日本と海外のメタルシーンにみられる違いとは?

 昨年、創刊30周年を迎えた『BURRN!』を初めとして、日本におけるメタルをテーマにした雑誌は数少なく、希少な存在でもある。その一端を担う『ヘドバン』だが、編集長として数々のライブにも足を運ぶ中で、メタル界に流れる空気をどのように感じ取っているのか。続けて、梅沢さんへ伺ってみた。

「まず、日本のメタルを取り扱うメディア側には長いあいだ、いびつな感じというか、排他的な感じはあった気がします。今も根強く残っている部分ではあります。あと、真剣にメタルと向き合い続けてきたファンの中には、メタルをうたうアーティストが出てきても「これはメタルだ。あれはメタルじゃない」という議論が常に繰り返されてはいますね。もちろん伝統を重んじるのも必要だと思うので、それが必ずしもハッキリといい悪いということではないですね。ただ、BABYMETALが日本のロックやメタルを軸に据えた雑誌で取り上げられなかったり、例えば、X JAPANをメタルが『メタルであるか』『メタルでないか』でいまだファンの中で揺れているのも、それを表す一つの象徴だと思います」

 メタルとは何か。ひとたび「メタル 定義」と検索しても、万能なはずのインターネットですら確固たる正解を導き出せない。時に、音楽性の観点から紐解く取り組みがみられたり、ビジュアルやステージ構成などの様式美を引き合いに出されるときもあるが、いずれにせよ誰一人として答えにはたどり着けていない。日本では何をもって「メタルであるか」という議論も繰り返しみられる一方、海外ではその空気も異なるようだ。

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「海外では日本と比べてメタルの枠が広いというか、排他的な感じがしないです。直近で如実に体感したのは、BABYMETALも参加した『Sonisphere Festival UK 2014』(2014年7月3日〜5日にかけて行われた英国の大規模メタルフェス)でした。メタル発祥の地といわれる現地ではそれこそ、10代の少年少女から、顔がしわしわのおじいちゃんやおばあちゃんまで、フェスに来ているわけです。日本だと明らかに10代の少年少女がIRON MAIDENを聴いたり、IRON MAIDENのTシャツを着て出かけたりする光景はなかなかないと思いますね」

 フェスでの光景を体感する中で「日本のメタル界も『こうなって欲しい』と純粋に思いました」と語る梅沢さん。さらに、メディアの作り手としても意識が変化したと話す。

「作り手としての意識も変わったし、刺激を受けた部分もたくさんあります。海外ではメディアも観客のみなさんも『いいものはいい。悪いものは悪い』と、ハッキリと口にするんです。中途半端なものにはきっちり『ダメだ』といいますが、そこから感じ取れるのは、ものごとへ向き合う上でのやわらかさというか、柔軟性が日本との違いだと思います」

 BABYMETALに限った例でいえば、別冊『ヘドバン・スピンオフ 奇跡のMSG! 燃えるロンドン! 徹底レポート号』(2014年12月 発売)では、世界的な老舗ヘヴィメタル専門誌『METAL HAMMER』編集長のアレックス・マイラスへのインタビューも実現している。その中でアレックスは「(メタルファンは)本物かどうかという信憑性を求める」と前置きする一方、「関係ないよ! 面白いじゃないか!」と思ったからこそ現地発のメタル専門誌としてはいち早く、BABYMETALへと斬り込んだという。

 純粋に面白いものを「面白い」と言い切る勇気。『ヘドバン』誕生の背景にあった、梅沢さんの意識にも共通する部分を感じる。そして、定義や既成概念といった呪縛に囚われることなく一歩ずつ真剣に進み続け、やがては世界をも巻き込む程になったBABYMETALの存在もまたしかりだ。そして最後に、BABYMETALの存在をふまえる中で、メタル界の未来に何を望むのか。梅沢さんに語って頂いた。

BABYMETALに『METAL』の5文字が含まれているというのは、正直、凄いことだと思うんですよ。いうなれば『ジャンルそのものを背負う』ということになりますし。メタル界でいえばMetallicaも同じですが、その十字架を担い、つぶれずに大きく成長できるのは数えられるほどしかません。それこそ現在でいえば、MetallicaとBABYMETALしかいないと思います。今年初め、さいたまスーパーアリーナ(2015年1月開催の『LEGEND“2015”~新春キツネ祭り~』)では2万人もの人達が詰めかけましたが、今、日本のメタルのライヴに2万人が集まるっていうのはBABYMETALぐらいです。そしてBABYMETALのライブには、メタルファンはもちろん、違う流れでたどり着いた人達もいます。だから、BABYMETALをきっかけにもっと『メタルって面白いじゃん!』と思う人たちが増えてほしいと願っているし、『ヘドバン』もそのガイド役として、メタルカルチャーへ興味を抱く人達を一人でも多く支えられるように今後も進んでいきたいと思います」

 じつは筆者もBABYMETALがいなければ、そして、その延長線上で『ヘドバン』がなければおそらくメタルに足の指先すらも踏み込んでいなかった一人である。しかし今や、わずかでもBABYMETALを「より深く知りたい」という一心でメタルの楽曲を聴き続けている。いや、聴かねばならないという衝動に駆られたのだ。何故、自分が突き動かされたのかを改めて振り返ると「伝えたいという思いを信じて真剣に全力で表現しよう」という気持ちが伝わったからこそだったと思う。最新号の発売も予定されている『ヘドバン』だが、この先もメタルを愛する“メタルヘッズ”達の道標として、熱く心を揺さぶり続ける。

取材・文=カネコシュウヘイ