『嵐が丘』も『トワイライト』も好きな大人のための大型ファンタジー

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2011/11/5

昨年、アメリカで発売された新人作家によるファンタジー『カッシアの物語』が、発売後たちまちベストセラーとなり世界33カ国以上が翻訳権を獲得。ウォルト・ディズニーによる映画化も決定した。
近未来のディストピアを舞台にした詩情あふれる力強い物語は、『嵐が丘』『風と共に去りぬ』『トワイライト』に続く新たなラブストーリーだ。
今秋、日本でも発売されたシリーズ第1作目の物語の一部を紹介しよう。

『カッシアの物語』

アリー・コンディ/著 高橋 啓/訳 プレジデント社 1890円
仕事も結婚も死期もすべてがコントロールされている管理社会「ソサエティ」に生きる少女カッシアは、17歳の誕生日の日に結婚相手が発表される「マッチ・バンケット」に参加した。そこで発表された相手は幼なじみのザンダーだった。ところが、会場で受け取った結婚相手の情報カードを見て、カッシアは驚く。そこに一瞬映し出されたのはザンダーとは別人の少年、カイだったのだ。自由とひきかえに平和な生活を取り戻した社会で、真実の恋を知ってしまったカッシアは長く険しい反逆の道へ向かって歩き始める──。本国アメリカで絶賛の嵐を巻き起こしたディストピアン・ラブストーリーの大型ファンタジー。シリーズ第1作。

すべては管理されている社会。ただひとつ、愛をのぞいては

 魔法も秘宝も派手なアクションシーンも出てこない。ジェットコースターのようなハラハラドキドキ感はないけれど、まるで一度乗ったら降りられなくなる観覧車のように、美しく力強い光景が広がる不思議な世界へじわじわと引き込まれていく。
 舞台は近未来の「ソサエティ」。そこは温暖化により人類の多くが死に絶えた後、秩序ある理想的な生活を実現するため構築された管理社会。どこで働き、誰と結婚し、いつどのように死ぬか、すべて役人がコントロールする世界で、人々は自由と引きかえに平穏な暮らしを送っている。

 17歳の主人公カッシアも、「マッチ・バンケット」というシステムで幼なじみのザンダーと結婚することが決まったが、その直後の不可解な出来事をきっかけに、本当の結婚相手が別の友人のカイである可能性を探りはじめる。カイは、養子として育てられているが、実はソサエティで差別されている“逸脱者”で、その身分を隠している。しかし、カイのことを知るにつれ道ならぬ恋に目覚めていくカッシア。
 主人公の少女の心の揺れ動きをモノローグで綴ったこの物語は、ファンタジーでありながら“ありえるかもしれない”未来が描かれ、ひとつひとつの出来事について考えさせられる、まったく新しいラブストーリーだ。

 編集に携わったフリー・エディターの笹浪真理子さんは、ヴァンパイアと少女の純愛を描いた『トワイライト』シリーズや、ディストピアで成長する少年の姿を描いた『ギヴァー』など世界中でヒットしたファンタジーも読んできた読書家だ。そんな彼女も、『カッシアの物語』は他のファンタジーとはまったく違う面白さがあると語ってくれた。

「アメリカではヤングアダルト小説として発売されているのですが、カッシアがいろんな障害を越えて真実の愛を求めていくラブストーリーは、ものすごくオーソドックスで古典的な恋愛の王道です。特にこの作品では、人が人を好きになっていく過程がとても繊細に描かれていて、誰かを好きになるとまるで顕微鏡を覗いているように相手の細部まで魅力的に見える様子など、とても説得力があります。そういうディティールや状況設定を大切にしながら、カッシアの心象風景をモノローグでぐいぐい読ませるのは、本当に筆力のある作家でないとできないこと。そもそも恋愛の深みにはまるときのドキドキ感は、どの国のどの世代にも共感を呼ぶと思うので、これは『嵐が丘』や『風と共に去りぬ』の系譜に連なる普遍的作品になると思います。

 今の時代、何年も読み継がれるような骨太の恋愛小説を書く作家はなかなか現れませんが、潜在的にそういった作品を読みたいと思っている人は多いのではないでしょうか。そういう読者に応えるつもりで『カッシアの物語』が登場したのかな、という気もします」
 すべてが管理された完璧な社会でも、唯一、愛だけは誰にもコントロールすることができない。究極の状況に追い込まれた少女から、私たちは目が離せなくなるのだ。