『嵐が丘』も『トワイライト』も好きな大人のための大型ファンタジー

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更新日:2011/11/25

約束された平穏な人生と愛に生きる反逆の道──。
17歳の少女が選んだ“選択”とは?

 

主な登場人物紹介

カイ
カイ・マーカム。カッシアの友人で同じ地区に住む少年。黒髪で整った顔立ち。養子として育てられたソサエティにおける「逸脱者」で、食品工場の洗浄処理場で働く。ある秘密を抱えて生きている。

カッシア
カッシア・マリア・レイズ。主人公。樹木園で働く植物の専門家の母・モリーと、ソサエティの役人で修復事業専門部署に勤める父・アベランとの間に生まれる。赤茶色の髪、緑の瞳の17歳。繊細で内向的な性格だが、大胆な一面もある。
ザンダー
ザンダー・トーマス・カロウ。カッシアの幼なじみでカッシアの近所に住む同じ学校に通う金髪に青い瞳の美少年。快活で頭脳明晰。つねにリーダー的な存在で周りの女性たちの憧れの的。

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「ぼくは今、どの人生が本当の人生なのかわかる、何が起ころうと」──カイ

「わたしたちがいっしょにいる時間はまるで嵐のよう。激しい風と雨のような、あまりに大きくてとても扱いきれず、あまりに強力で逃れることもできない何か」──カッシア

「ぼくらはいずれ、いっしょになれるかもしれないね。
こういうことすべてが終わったあとに」──ザンダー

エム
カッシアが子どもの頃からたくさんの行動をともにしてきた親友。黒髪に黒い瞳、クリーム色の肌をもつ華奢な少女。ある日、ザンダーとカイとカッシアの4人が集ったミュージック・ホールで原因不明の発作を起こしてしまう。
ブラム
カッシアの弟。10歳。茶色の髪に茶色の瞳の少年。活発ないたずらっ子だが、学校の初日に登校を拒否してカッシアがいろいろと手を尽くした。その出来事がカイがカッシアを知るきっかけとなった。
おじいさん
カッシアの父方の祖父。おじいさんの母親は「百の選別委員会」のスタッフだった人で詩をこよなく愛し、自分も詩を大切にして生きた人物。生き生きとした美しく輝く瞳をしている。

 

 

優しくなってはいけない
      ──ディラン・トマス(1914〜1953)

優しくなってはいけない、
あの安らかな夜に入っていくときに、
老齢は日の暮れに燃え上がり、荒れ狂うがいい、
怒れ、怒れ、光の死に抗して怒れ。

賢者たちは臨終のとき闇こそ正しいと知りながら、
自分たちの言葉が一瞬の稲妻を貫いたこともなかったがゆえに
彼らは優しくなることもない、あの安らかな夜に入っていくときに。

文学的な香り高い『カッシアの物語』の奥深さ

『カッシアの物語』には詩が頻繁に出てくる。中でも繰り返し引用されているのが、英語で執筆をおこなうもっとも偉大な20世紀の詩人といわれているディラン・トマスの詩句だ。他にもピューリッツァー賞を4度受賞したロバート・フロストやイギリスの桂冠詩人ワーズワースなど、「古典」の域に達した有名な詩人に触れられている。その点について、翻訳を手がけた高橋啓氏は、「詩が好きだから引用した、ですまされる話ではありません」「(彼らが)〝過去〟の詩人として扱われることに対して、著者が抗議しているような趣さえあります」とあとがきで記している。そして、「著者アリー・コンディも主人公のカッシアも、何かと闘おうとしている」と。つまりこの小説には、物語を通じて今を生きる私たちに対する問いかけを読み解く奥深さがあるのだ。