【あなたとあの人の会話が咬み合わない理由】抽象的な話が全く通じない相手との会話術

人間関係

更新日:2016/1/13

 この人と話していると、自分自身に起きた出来事や、メディアから得た情報を報告されるだけ。「だから何?」と思ってしまう――。このような経験はないだろうか。

 なぜ相手の言葉は自分にとってはつまらないのか。また、なぜ自分の言葉は相手に届かないのか。このような話の擦れ違いが生じる原因を探るべく、『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』(細谷 功/dZERO)から、会話をする時の人の思考癖を学んでみよう。

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 本書のタイトルになっている「具体」と「抽象」とは、私たちが普段から“具体的”“抽象的”などと用いる、言葉通りの意味だ。わかりやすくて目に見える物を表現するのが「具体」、わかりにくくて目には見えない物を表現するのが「抽象」である。

 例えば、マグロもサケもアジも、まとめると魚である。この場合、マグロ、サケ、アジは「具体」、魚は「抽象」だ。さらに、マグロだけについて考えれば、“私の目の前のマグロ”と“魚市場のマグロ”というそれぞれの個体は、“同じマグロという種類”に分類されていると言える。この場合は、目の前の個体が「具体」、魚市場の個体も「具体」、同じ種類として分類されたグループ名マグロが「抽象」である。

 このように、私たちは無意識に、「具体」「抽象」を使い分け、両者の間を行ったり来たりしながら暮らしている。

 ただし、人によって、思考パターンに「具体」が多い、「抽象」が多いという差は存在するそうだ。出来事をただ羅列するように述べたり、テレビで言っていた事そのままをしゃべったりしがちな人は、「具体」寄りの人、さまざまな出来事を概念として扱う哲学者などは「抽象」寄りの人というわけだ。

 実は、こうした思考癖の違いこそが、話の噛み合わない理由なのだ。「具体」に偏りがちな人は、目に見えない事柄の話を聞いても何を言っているのかわからないし、「抽象」に偏りがちな人は、結論や考えのない話を聞くと「だから何が言いたいの?」と感じてしまう。

 つまり、いいコミュニケーションとは、自分と相手との「具体」「抽象」の差が少ないほど生まれやすい。会話の擦れ違い解決の第一歩は、自分の思考がいつもの癖で偏ってしまうのをグッと抑え、相手の「具体」「抽象」レベルに合わせることだと言えよう。

 しかし、1つだけ心に留めておきたい事がある。本書では、「抽象度の高い概念は、わかる人にしかわからない」と結論付けられているのだ。「抽象」の世界が見えている人には「具体」の世界も見えるが、「具体」しか見えていない人には「抽象」は見えないのだという。著者はこれを「見えてしまった人が持つ共通かつ永遠の悩み」と表している。

 5歳の男の子に恋とはどのようなものなのか、言葉を尽くして説明したとしよう。「女の子を好きになったときに、一緒にいると嬉しい気持ちになったり、相手に何かしてあげたいと思ったり、相手にも好かれたいと感じたり…」。だが男の子は聞くだろう、「お友達とどう違うの?」と。恋は、その感覚を体験するか、ある程度の年齢になって友人の話やアニメなどから想像できるようにならないと理解できないものだろう。そして、一度理解できてしまうと、理解する前の状態には戻れない。

 幼児を例に出すのは極端かもしれないが、普段、私たちは、会話をする相手によって、自分が「具体」寄りか、「抽象」寄りか、立ち位置を変えている。著者は、「見えてしまった人が持つ共通かつ永遠の悩み」へのアドバイスとして、さらには充実した人生を送るヒントとして、「具体」と「抽象」をセットで使うことを提案する。

 すなわち、会話においては、自分を「具体」「抽象」の間で自在に行き来させること、人生においては、「抽象」的な知識を頭の中に止めたままにせず「具体」的な行動に移していくことが大切だというのだ。

 このように、「抽象」と「具体」を知り、自由な往復を目指せるのは、周りの人との意思疎通に悩んだり、自分のコミュニケーション能力を疑ったりした経験があるからこそ。立ち止まったからこそ、新たに手にした思考の動かし方で何かを伝えられた時の喜びは、とても大きなものになるだろう。

文=奥みんす