音楽で食えないと悟った音大生は何を目指せばいいのか?【音大卒の武器】

ビジネス

2015/2/13

 「就活」は人生の一大イベントだ。意外にも今、就職指導に力を入れているのが「音大」でもある。武蔵野音楽大学の就職課に勤める著者が書いた『「音大卒」は武器になる』(大内孝夫/ヤマハミュージックメディア)は、音大生や音大講師の間で大きな話題になった。

「音大卒」は武器になる』(大内孝夫/ヤマハミュージックメディア)

音楽家として暮らすことの大変さ

 著者の大内さんは、自立のためにも就活することを強く勧めている。

 一般企業と違い、プロのオーケストラには毎年リクルートがあるわけではない。メンバーが定年になるなどの理由で枠が1つ空き、オーディションが開かれ、全国から何百人ものフリーの音楽家たちが押し寄せる。音楽団体に所属するのは狭き門なのだ。

 フリーの音楽家を続けるのも大変だ。定期的な仕事に加えて、突然「今週末空いてる?」と知人から回ってくる仕事もある。シフトが自由になるアルバイト選びも難しい。年をとればアルバイト先もなくなり生活に行き詰まる、と大内さんは危惧する。

二極化する若者たち

1月20日、文部科学・厚生労働両省が公表した今春卒業予定の大学生の就職内定率は非常に高い。女子だけだと81.9%。男子を含めた全体でも80.3%と、4年連続の改善となった。

 一方で、ビッグイシュー基金は2月8日にシンポジウム『市民が考える若者の住宅問題』を開いた。収入が足らず、実家から出られない若者がたくさんいるのだ。「若者は大卒でも貧困に至っている」と社会福祉士の藤田孝典さんは語る。

 学生のうちに就活が決まりさえすれば、自立は保証されるだろう。それができなかった若者たちは貧困にあえぐのだ。「やり直せない社会」という現実が、切なくもそこにある。

音大生の「武器」とは何か

 大内さんは、音大生の「武器」とは「コミュニケーション能力」だと断言する。マンツーマンの個人レッスンから培えるものは大きい。加えて、1人だけで演奏することは難しい場合も多い。人とアンサンブルする経験を通して、人間関係の機微も学べる。

 また、音大生には「強烈なプロフェッショナリズム」がある。基本的に実技の授業は何があろうと遅刻や欠席は許されない。また、レストランなどで演奏を頼まれることもある。学生であってもお金をもらう以上、ベストを尽くさなければならない。

 東京藝術大学学長の宮田亮平さんは、PRESIDENTで「一つの目的に向かって死にものぐるいで努力して道を極めた子なら、たとえほかの道に方向転換してもそれを基礎力として踏ん張れるものなんです。そんな子を見いだしてわが社に来てくれと言える企業家が欲しいですね」と語っている。

 宮田さんは、一般企業に就職しても不安はなくなることはないと話す。人生に「こうすべき」という正解はないのだから、芸術家を続けたいのなら続ければよい、と言う。この点は大内さんのアドバイスと少し異なる。

現実を直視して就活したいのなら、必読の1冊

 どちらの答えが現実的なのか。もちろん正解などない。しかし…音大で圧倒的な才能を持った他人と出会い、劣等感を抱くこともあるだろう。自分は音楽家としては一流になれないと気づいた…そんな人こそ、大内さんの本を熟読し、努力して就活すべきなのかもしれない。この本には『【実践編】音大生の就職マニュアル』が付いている。卒業後を見据えるからこそ、貴重な大学生活がより充実することもあるのではないだろうか。

 就活を選ばない音大生のためにも、確定申告の丁寧なガイドもあり、至れり尽くせりだ。子どもが音大生、あるいは音大を目指している保護者の方にも、欠かせない一冊と言えるだろう。

文=川澄萌野