仕方ない? あの電車が「風が吹くだけで止まる」理由

社会

更新日:2015/3/2

 強風が吹くたび、電車の遅延に怯える者は決して少なくはないだろう。特に京葉線、武蔵野線、総武線、川越線等の路線では、2000年代半ば以降、ラッシュ時であろうと風が吹けば情け容赦なく運休になることが頻繁にあった。そのため、昨今はましになったとはいえ、過去に「強風のせいで、地元から出られない」事態に陥った経験は心に深く残り、未だに強風のたびに電車遅延の心配をしてしまうのである。

 なぜ電車は風が原因で止まりやすいのか。梅原淳著『なぜ風が吹くと電車が止まるのか』(PHP研究所)では、鉄道会社が自然災害に対してどのように向き合ってきたかに触れている。たとえば、2000年代半ば以降、強風によって電車の運休が相次いだのは風に対する基準が強化されたため。従来、JR東日本は、強風に対して、沿線に設置された風速計が風速25m/sで時速25km以下での徐行、風速30m/s以上で運転見合わせという基準を設けていた。しかし、その基準は、2006年1月19日から、風速20m/s以上で時速25km以下の徐行、風速が25m/s以上で運転見合わせ、というようにより厳しく変更されたのである。

 この基準変更のきっかけとなったのは、2005年12月25日に起きたJR東日本羽越線特急「いなほ」において起きた脱線事故だ。北余目駅−砂越駅間で発生したこの事故では、乗客5人が死亡、乗客・乗組員合わせて33人が負傷。列車は風速40m/s以上の突風に襲われたと推定されているが、現場近くにJRが設置した風速計の数値は20m/s程度で、狭い範囲を移動した強風を検知できなかったことが、事故の大きな原因といえる。

 そこで、このような事故の再発を防止するため、JR東日本は強風の規制を変更するだけでなく、風速計を増加することで風への観測体制を強化。事故当時はJR東日本営業区域で風速計が317カ所だったものを857カ所と2.7倍に増加させた。こうしたJR東日本の事故防止のための努力の結果、風に対する安全性は高まったものの、風速計が増えたため、「強風が原因」での電車の遅延、運休が相次ぐ事態となってしまったのである。

「少々の風で止まっていた」と思っていたが、実はJR東日本の基準さえ他の交通機関に比べれば、ゆるい。高速道路では、風速15m/s以上で速度規制、20m/s以上で運行止めとなるし、航空機は横風が吹くと、機種によって風速10m/s前半でも離陸や着陸が難しくなる。しかし、電車は私たちにとって一番身近な交通の足である。「動いて当たり前」という考えのため、「強風での遅延」は多くの者にとって理解しがたく、不便極まりない事態だった。

 JR東日本はこの状況からさらに脱却すべく、2013年から、22カ所へおよそ163億円を投じて防風柵の設置を進めている。そのうち、京葉線と武蔵野線が全体の45%を占め、京葉線は2013年度、総武線は2014年度、常磐線は2015年度から防風柵の使用をスタートする。強風対策として防風柵等を設置した区間においては、運転規制が従来の基準へと緩和されるため、遅延は減少傾向にある。JR東日本によると、京葉線では2012年11月~2013年4月末までの集計で、防風柵未設置なら378分となる運転見合わせ時間が30分と92%減少するなど、すでに大きな効果が発揮されているようだ。

 急いでいる際に「遅延」「運転見合わせ」という言葉だけを聞くと、焦りや苛立ちばかりが募るが、電車の歴史は安全性と利便性を目指してきた歴史ともいえる。「遅延」「運転見合わせ」と一口にいえど、それは、安全な電車運行のためのやむを得ない措置なのかもしれない。

文=アサトーミナミ