限界集落復活物語、果たしてその現実は? ―コンパクトシティを目指す富山市のとある集落の場合

社会

更新日:2015/3/26

 富山市の外れ、岐阜県との境に近い山あいに、大長谷という集落がある。JR高山本線越中八尾駅から1日2本だけのバスに揺られて約1時間。国道471号に添って民家が点在する過疎の村だ。かつては2000人近い人々が暮らしていたというが、今の定住者は50人に満たない。さらに、その住民の大半が60歳以上の高齢者。いわゆる“限界集落”だ。このまま何もしなければ村はなくなってしまう。

 もちろん、何もせずに消滅を待っているわけではない。NPO法人大長谷村づくり協議会が中心となり、過疎化に歯止めをかけて村を活性化させるべく、さまざまな取り組みを行っている。同協議会の村上光進理事長は言う。

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「昭和30年代はたくさん人も住んでいて、賑やかでしたよ。私が子供の頃は、同級生が30人以上いた。だけど、みんな出て行って残ったのは私を含めてふたりだけ。今じゃ高齢者ばかりで、放っておいたら間違いなくなくなってしまう。それでもいい、という人もいるけれど、それではこの村や山の自然を守る人がいなくなる。道路だってすぐに朽ち果てる。だから、少しでも村を元気にして、守っていきたいと思って、いろいろ頑張っているんです」

 具体的には、白木峰のトラッキングや農業体験などを旗印に観光客を誘致し、さらに農業研修生も積極的に受け入れている。平成のはじめには10組ほどの移住者があったこともひとつのきっかけになったようだ。長らく“余所者”の流入を拒否してきたというこの村にも、新しい風が入ってきた、というわけだ。

 実際これらの取り組みは一定の成果を上げている。毎週末のように村を訪れる人もいるし、夏には岩魚釣りに訪れる親子連れも多い。1970年代に建設されたキャンプ場も賑わうし、大長谷温泉は、小さいけれど身も心もあたたまる名湯だ。

 と、大長谷はまるで小説『限界集落株式会社』(黒野伸一/小学館)のように復活の道筋を辿っているように見える。この作品、今年のはじめにNHK土曜ドラマでも放送され、昨年末には続編にあたる『脱・限界集落株式会社』も刊行されて大ヒットしている。

 実は原作とドラマのストーリーにはかなり違いがあるのだが、いずれも“過疎の村を株式会社化(農業法人化)させて復活させる”という大枠は変わらない。そして、“脱”では復活のめどがたったところで駅前再開発計画が持ち上がり、地元の商店街を守ろうとする反対派と便利さを追求する賛成派であーだこーだ…といった内容。結論は同書を読んでいただくとして、地方の活性化(いわゆる“地方創生”)をテーマの軸にしつつ、若者の雇用や“ハゲタカファンド”の問題なども織り込まれており、なかなか読み応えのある一冊になっている。

 そして、まさにこの作品のように、過疎からの復活に向けて大長谷も歩んでいるというわけだ。となれば、地方創生が話題の昨今、『限界集落株式会社』のフィクション世界と大長谷を参考に、全国の過疎の村もよみがえるかも…と言いたいところだが、現実はそう甘くはない。
 大長谷でも、観光などで訪れる人は増えているものの、定住者の増加にはつながっていないという問題がある。定住者が増えなければ、結局は村は消滅してしまう。『限界集落株式会社』では、どんどん賑やかな村になっていくのだが、現実はやはり厳しいのだ。

 なぜ思うように定住が進まないのか。その要因のひとつは、自治体の支援が思うように受けられていないということ。富山市は、市の中心部に人口を集中させるコンパクトシティ構想を進めている。中心部を走る第三セクターの富山ライトレールをはじめとする公共交通機関の沿線に転居すれば、転居費用を援助する制度などを設けるなどした結果、この構想は一定の成果をあげた。しかし、一方で大長谷のような地方が取り残されているという面もあるのだ。

「農業研修を終えた若い子が、定住したいと言ってくれた。だったら農業の機械とかを買わないといけない。その援助をしてくれる制度があるので利用したいと言ったら、市は“そんなことに予算は使えない”と。富山市からしてみれば、せっかく中心部に人を集めているのに、過疎の村に人が来てもらっては困る…ということなんでしょう」

 独自で活性化に取り組む集落や商店街と自治体との対立は、『限界集落株式会社』の中でも描かれる。けれど、『限界集落株式会社』ではその自治体自体も過疎に悩み、その対策として取った方向性がずれていただけのことだ。富山市と大長谷でもそれはある意味同じだが、いかんせん規模が違いすぎる。

「私らは、別に大層な施設を作ってくれとか、大きなことをお願いしているわけじゃないんです。ほそぼそとでもいいから身の丈にあった暮らしを続けていける。それを望んでいるだけ。今のままではそれもできないからいろいろと考えて取り組んできた。コンパクトシティが悪いとは思わない。でも、山あいの小さな村が残っていくことや、そこに住みたいと思う人のことも、少しでも気にかけて欲しいですね」

 現実は小説のように簡単にハッピーエンドは迎えない。もちろん、『限界集落株式会社』が夢物語のお伽話だというつもりはない。地方の活性化につながるヒントはたくさん詰まっているし、大長谷との共通項も少なくない。この小説やドラマをきっかけにして、地方の活性化と過疎の問題を地方や寒村に暮らす人だけの問題にせず、都市部で生活している人たちも当事者として考えていく必要があることは間違いないだろう。

文=鼠入昌史(Office Ti+)