累計50万部突破!エンタメノベル界の新星は、神様の悩みを解決するフリーターとモフモフ狐神!?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

神社に手を合わせども何も叶わず、思わず「本当に神など存在するのか?」と疑ってしまうような理不尽な世の中だ。だが、もしかしたら、理不尽なのは、人間の方なのかもしれない。神社を見かければ、なんともなしに願掛けするだけ。そこにどんな神様がまつられているのかも知らず、感謝の思いも持たずに、一方的に願いをぶつけられれば、神様だって辟易とするはずだ。

神にだって個性があるのだ!そして、人間のように、いろいろな悩みや願いを抱えているのだ…!そんなことを教えてくれる、浅葉なつ氏著の『神様の御用人』(メディアワークス文庫)が今、大きな話題を呼んでいる。1〜3巻で累計発行部数50万部以上の売り上げを達成。エンタメノベル界の新たなヒットタイトルと言っても過言ではあるまい。

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主人公は、フリーターの青年・萩原良彦。彼はひょんなことから、八百万の神様たちの「御用(=願い)」を聞き、叶える「御用人」の役目を担うことになる。モフモフした狐の姿の方位神・黄金を相棒に、人間以上に人間味あふれる神様に満足してもらおうと良彦が奔走する姿は、読んでいて、ほのぼのさせられる。「御用人」というよりも、「お使い」や「パシリ」というに相応しいが、それがまた笑いを誘う。きっと昔は、神様と人の距離はこんな風に近いものだったのだろう。この作品は、古事記や民話などに登場する神様と人との間に生まれる絆を、笑いと涙を交えて温かく描き出している。

『神様の御用人』は、神を全知全能の存在としてとらえるのではなく、人間と持ちつ持たれつ身近な存在として描き出しているのが新しい。古事記に出てくる人間じみた神の存在と近いのかもしれない。1話ごとに神様1人ひとりの個性にとことん寄り添おうとしている。どうやら現代の神々は力を失いかけているらしい。本殿内にパソコン持ち込んで引きこもってネトゲをする某神や、夜の繁華街を飲み歩く某女神など、有名な神々も私たちの想像だにしない姿で描かれている。

しかし、好き勝手に描いているわけではない。浅葉なつ氏は相当な神社オタクか、そうでないならば、浅葉氏自身が「神様の御用人」なのではないか!? そう疑ってしまう程に、1話、1話、それだけでも本が一冊書けそうな程、古事記や民話を下敷きにしたエピソードを贅沢に盛り込んでいるからこそ、このストーリーには他のエンタメノベルにはない深みがある。その深みがあるからこそ、浅葉氏の描く神々の悩みは読む者にとって時に可笑しく、同時に切なくもあるのだ。

最新刊・3巻では、織物の神様・天棚機姫神(あめたなばたつひめのかみ)やお菓子の神様・田道間守命(たじまもりのみこと)が登場。特殊な能力を持つ女子高校生のヒロイン・穂乃香との距離も縮まり、一層物語から目が離せない展開となっている。

神様だって悩みながら人と向き合っているのだ。そう思うと、全知全能の存在、雲の上の存在と思えていた神様にはじめて親近感が湧く。冴えないフリーターがモフモフ狐神とともに神の「御用聞き」をすることによって自信を取り戻していくストーリーはエンタメノベルらしい展開をとりながらも、今までエンタメノベルに親しみを感じて来なかった者にもぜひともオススメしたい作品だ。神社やパワースポット巡りが楽しくなりそうなシリーズ。八百万、さまざまなものに神の存在を見出してきた日本の魅力が詰まった作品だ。

文=アサトーミナミ

神様の御用人』(浅葉なつ/KADOKAWA アスキー・メディアワークス)