「未来からの手紙」が運命を決める? 青春SFラブストーリー『orange』人気の理由

マンガ

更新日:2015/10/9

 あの時、あんなこと言わなきゃよかった、あの時、ちゃんと気持ちを伝えておくべきだった…時間を戻すわけにはいかないけれど、誰にだって後悔はあるもの。しかも、その後悔が「大切な人を失う」ことにつながるものだったとしたら…女子中高生に人気の漫画家・高野苺の描く『orange』は、そんな「取り返しのつかない後悔」を作らないために、未来の自分から過去の自分に宛てた「手紙」が背中を押すという、一風変わった青春ラブストーリーだ。

 舞台は長野県松本のとある高校。高2の新学期を迎えた朝、16歳の菜穂のもとに「自分と同じ後悔をしないで」という10年後の自分からの手紙が届く。手紙には、これから菜穂に起こることの予言めいた内容と共に、「話をきいてあげてほしい」など、10年後の自分の後悔への思いが記されていた。後悔の中心は、手紙が届いたその日に東京から転校してきた翔(かける)とのこと。10年後の世界では、なんと翔は18歳になる前に事故で亡くなってしまうというのだ。手紙にある後悔を消せば翔を救う事ができるのかもしれない――仲良しグループと一緒にいてもどこか寂しさの漂う笑顔を浮かべる翔に、次第に心惹かれていく菜穂は、戸惑いながらも手紙の内容に向き合い、ひとつずつ10年後の後悔を消していこうとするのだった。

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 後悔を消すということは、菜穂にとっては臆病だった自分を変えていくことでもある。自分より相手を優先して気持ちを言い出せないタイプだった菜穂にとって、10年後の自分が言えなかった言葉や、やってあげられなかったことに、勇気を出してトライするのだから相当ハードルが高い。だが大好きな翔のため、菜穂は全身が震えるほどにドキドキしながら、一歩一歩前に進んでいく。そのいじらしさと、そんな菜穂のガンバリに翔が驚いたように浮かべる笑顔…お互いに好きでありながら距離が縮められないもどかしさも手伝って、まぶしいほどに純度が高い2人の姿にキュンキュンが止まらない。

 何より物語を面白くしているのは、「未来からの手紙」というアイテムも含め、過去の世界と未来の世界をクロスさせ、「過去をかえても未来は変わらない」というパラレルワールドを描くというSF的な醍醐味だろう。翔と菜穂のじれったい恋愛模様や青くさい仲間たちとの友情といった、いわゆる少女漫画的世界にとどまらないスケールは大きな魅力。男女問わずに大人気で、すでに累計100万部突破というのも納得だ。

 手紙には書かれていなかった現実が少しずつ起こり始める一方で、次第に深刻な事態が明らかになっていく中、菜穂はひとりでは問題を抱えきれなくなり、勇気を出して仲間たちに相談する。そこでわかる事実…。仲間たちは翔を救おうと誓い合い、体育祭のリレー選手になった翔を盛り上げようと自分たちも選手に立候補するのだった。手紙の「リレーに翔は出さないで」とは違う選択をした彼らの先に待ち受けるものとは…。問題の体育祭が描かれた4巻が登場したばかりの『orange』だが、甘酸っぱいのに先の読めない展開はさらにスリリング。早く続きが読みたい!

文=荒井理恵

orange』(高野苺/双葉社)