読売新聞×ダ・ヴィンチ ミステリーブックフェア2015 【鼎談】今野 敏×湊 かなえ×間室道子(代官山 蔦屋書店 文学担当)<後編>

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2015/3/8

「隠蔽捜査」シリーズで人気の日本推理作家協会代表理事・今野敏さんと、「告白」での鮮烈なデビューからヒットを連発する湊かなえさん、そしてミステリーを知り尽くす書店員の間室道子さんを交えた鼎談も後半戦。今回も代官山 蔦屋書店から「ミステリーの書き方」について語ります!

(左)「本屋さんでは独特の高揚感に包まれる」湊 かなえ
みなと・かなえ/広島県生まれ。主婦業をこなしながら2005年に「BS-i新人脚本賞」に佳作入選。07年、「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。09年、「聖職者」を収録した「告白」が本屋大賞を受賞。デビュー作での本屋大賞受賞は史上初。同作は映画化され、その後も「夜行観覧車」、「Nのために」など多数の作品が映像化されている。12年には、「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞。最新刊「絶唱」が好評発売中。

(右)「課題図書や感想文はなくてもいいかも」今野 敏
こんの・びん/北海道生まれ。上智大学在学中の1978年に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。06年、「隠蔽捜査」で吉川英治文学新人賞を受賞。08年「果断 隠蔽捜査2」で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。13年より日本推理作家協会理事長(現・代表理事)に就任。「隠蔽捜査」、「安積班シリーズ」、「ST 警視庁科学特捜班」など映像化作品も多数。本格警察小説の第一人者であるとともに、アクションやSFなど幅広いジャンルを執筆する。

結末は想定外になることも

今野 敏

間室:ミステリーといえば華麗なドンデン返し。今野さんの「果断 隠蔽捜査2」は、見事な展開でした。最初から構想は立てるのですか?

今野:まったく(苦笑)。犯人すら決めていないこともあるほどです。もちろん、結末に向けて要所要所に伏線は張っておきます。そして、結末が近づいた頃に読み返し、どの伏線のラインが美しいかを検討した上で、ようやく犯人を決めるんです。大体、最終章は読者と一緒にハラハラしながら書いてますよ。

:私も結末は自分が想定していなかった展開になることが多いのですが、犯人までとは驚きです!

今野:ミステリーファンは謎が気になるかもしれませんが、僕にとっては極端な話、どんな事件だろうといいんです。なぜなら、僕はその事件に対して警察がどう動くのか、その組織としてのリアリティーを書いていますから。

間室:たしかに、今野さんの警察小説は〝個人〟よりも〝組織〟に重きを置いている点で新しいですね。

今野:僕の原点は、幼少期に読んでいた、はとこの石ノ森章太郎の「サイボーグ009」なんです。主人公は009の島村ジョーですが、実は彼がそこまで大活躍するわけではありません。むしろ、周りの仲間たちがチームで戦う物語になっている。これは、僕の多くの作品に共通しています。

ネタや資料の集め方

間室:湊さんはいかがでしょう。

:私もネタ帳に頼らないので、どうしても行き詰った時は、編集者に言葉を投げてもらいます。「〝島〟はどうですか?」、「〝手紙〟に興味はありますか?」といった具合に3つくらい投げてもらって、自分の中で一番大きな波紋が広がった言葉をきっかけに取り掛かります。私は作家生活7年目ですから、37年目の今野先生の持続した創作力には驚愕します。

今野:よく読んでみると、登場人物に大きな変化があるわけではないんですよ。ただ、組織を書く場合、人間関係によって変化が出てくる。例えば、安積(ドラマ「ハンチョウ」の原作である「安積班シリーズ」の主人公)が「俺は正義を貫く」と言うと、部下の須田がニヤリとする。一方、竜崎(「隠蔽捜査」の主人公)が同じ台詞を言うと、周囲はびっくりする。つまり、主人公の性格が一緒でも、人間関係が変われば違う小説になるんです。資料を集めに本屋に行くと、興味本位でついつい余計なものを買ってしまいます(笑)。それが、意外と創作につながっているのかもしれませんね。それから、作家をやっていると、どうしても売れ行きに目が行ってしまいませんか?

:やっぱり気になりますね。自分の本を奇麗に陳列し直していたら、実は書店の方に作家本人だと気づかれていて、恥ずかしい思いをしたこともありました(苦笑)。

作家ならではの習慣と苦労

間室:そうした創作活動の中で、習慣づけていることはありますか?

:とにかく日常生活のリズムを保つことです。日中は家事や町内会の行事に参加し、家人が寝た後、必ず机に向う。そうしていると、どんなにアイデアが浮かばない時でも、何か書く癖がつく。書いていれば、それがダメでも、「じゃあ違う方向にしよう」となるので、決して無駄にはならないんです。

今野:それこそプロの仕事ですよ。僕は区切りが良い所まで書かないようにしている。そうしないと次に書き始める時が大変。いつも中途半端で終わらせておくのがコツですね。

間室:今野さんは、普段どうやって創作しているのですか?

今野:僕は本当にこだわりがないんです。いつでも、どこでも。書こうと思えば、今ここでも書けますよ。

間室:では逆に、執筆の度に苦労する点はありますか?

:登場人物の名前は、いつも悩みますね。設定した時代に人気があった名前ランキングを参考にしたり。

今野:あとは電話帳と地図。地名や駅名はバリエーションがあるので、役に立ちます。

:タイトルも苦手かもしれません。連載の場合、書き始める前にタイトルを考えなくてはならないので、すごくプレッシャーです。アイデアの参考に、本屋に「タイトル狩り」に行ってみたり。

今野:分かります。あと、僕の隠蔽捜査シリーズや湊さんの「告白」のように、二文字はなんとなく気合が入りませんか?

:勝負作って感じがしますよね(笑)もちろん全部勝負作ですけどね。

映像化は創作の刺激にもなる

湊かなえ

間室:よく「登場人物が作者から独立して、自分で動き出す」という話がありますが、そういった瞬間はありますか?

今野:もし常にそうなら、そのまま書けばいいのでとても助かりますが、なかなか難しいですね。特に僕は、読者の想像力を刺激するためにキャラクター造型を作り込まず、執筆しながら物語と同時進行でキャラクターを深めていくので、尚更なのだと思います。

:私もすべての作品でキャラクターが動くということはありません。その点、ドラマは小説にないシーンを生み出してくれるので、勉強になります。

今野:同感です。僕はドラマオリジナルの女性刑事を小説に逆輸入してしまったほどですから(笑)。

間室:映像化される作品が多いお二人ですが、創作活動にも好影響があるのですね。今後の展望をお聞かせください。

今野:「これを書いてみたい!」という強い願望はありませんが、これまで通りリアリティーある組織、そして人間関係を描いていくことでしょう。その点で、警察にこだわりはなく、どんなジャンルでもリクエストがあれば応えたい。作家って不思議なもので、自信はないけれど、不安もない。プレッシャーがあっても、心の底では「どうにかなるかな」と思っていたりするし、そういう人しか残らないような気がします。

:私は人間の内面を掘り下げる物語はひと段落して、実は今、本格ミステリーを書いてみたいと思っているんです。まだ誰も発見していない密室が、どこかにあるはず! 一度でいいから「読者への挑戦状」を送ってみたいと思います。

今野:苦手なタイプの小説なのですが(笑)湊さんが書くならぜひ読んでみたいな。

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