渋谷円山町、そのディープな魅力とは ―『迷宮の花街 渋谷円山町』著者と歩く

社会

更新日:2015/3/11

 本橋さんが急に声をあげる。本書にも登場する、円山芸者の鈴子姐さんと偶然出くわしたのだ。叔母のすすめで18歳にして花柳界に入り、いまもお座敷に呼ばれている現役の芸者さんだ。弟子もふたり抱えている。すっぴんながら着物をさらりと着こなし、明るい挨拶を残して足早にどこかに向かっていった。お座敷の準備でもあるのだろうか。

本「鈴子姐さんとお弟子さんふたりの写真を本書に載せましたが、おでん屋の前で撮ったときは、会社帰りのサラリーマンがたくさん見物していたんですよ。着物の女性っていうのに、男はどうも弱い。くわえて鈴子姐さんは何でもずばずばいう性格だから、会社のおえらいさんたちのなかには彼女に突っ込まれたくてお座敷に呼んでいた人もいたでしょうね。会話がほんとうにしゃれた女性です。昔ながらの遊び人が減り、花街としての円山町は過去のものになってしまったけど、いまだこの地でがんばっている芸者さんたちがいる。ものすごい勢いで変わりゆく街のなかでも、芸者さんたちが守っている文化はこのまま残ってほしいですね」

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 それにしても、どの通りを歩いても必ずラブホテルに行き当たる。仕事中とおぼしきスーツ姿の男女があっちのホテルに吸い込まれていったかと思えば、こっちのホテルには女性はひとりで入っていく。おそらくはデリヘル嬢だ。

本「円山町は渋谷駅からやや離れているので、密会するにはいい場所ですよね。坂があったり狭い路地があったりするから秘密めいた雰囲気があり、大通りに面したホテルには入りにくい人たちが吸い寄せられてくる。このへんは花街の名残でおいしい飲食店も多いですから、食欲を満たしてその後にホテルへ……というのもわかりやすい流れですね」

 話しているうちに、この界隈でも特に知られたホテルの前を通り過ぎる。

【次のページ】本書で取材した人妻から、ある大物政治家とここで密会して、かなりアブノーマルなお愉しみにふけっているという話を聞きました」