渋谷円山町、そのディープな魅力とは ―『迷宮の花街 渋谷円山町』著者と歩く

社会

更新日:2015/3/11

本「ここは店名を見ればわかるのですが、入口がふたつあります。お忍びでしかラブホテルを利用できない人には持ってこいですね。しかもパーティルームがあるので、複数人で入室できます。本書で取材した人妻から、ある大物政治家とここで密会して、かなりアブノーマルなお愉しみにふけっているという話を聞きました」

 どこかの週刊誌が知ったらよろこんで飛びつきそうな話をさらりとしながら、井の頭線・神泉駅へと歩みを進める。駅からほど近いマンションのわきに、石碑が控えめに立っていた。明治時代にこの場所でわき水が発見されたことを、いまに伝えてくれるものだ。これを利用した銭湯ができ、その周りに料亭が集まってきたのが、花街としての円山町のはじまりである。

advertisement

 そこからほど近いところに、“その場所”はあった。

本「ここが東電OLが殺された現場です」

 いかにもすすけた印象の建物である。おそらくちょっとでも声をあげれば隣室に聞こえそうなほど古くて安いアパート。事件から18年が経ったいま、その部屋には外国人が居住しているという。

本「慶応義塾大学を出て、総合職として東京電力に入社。当時としてはエリート中のエリートだった彼女が、その十数年後にはこの街で、風俗のヒエラルキーでも最低のところに位置する〈立ちんぼ〉をしていました。今回は円山町で生きるいろんな女性に東電OLをどう思うか聞いてみたけど、当時のことを知らない世代の女性でも同性として思うところがあるようで、興味深い答えがたくさん返ってきましたね」

 犯人と目されたネパール人男性は、2012年に無罪が確定。いまだ真犯人はつかまっていない。

本「まだ語られていないところがあるはずだし、真犯人のアウトラインも見えてはいるけれど、事件はまだわからない部分が多いですね。被害者の彼女は、見る角度によっていろんな顔を見せてくれます。先ほど見た廃屋に住む老人も、今回は彼の話をそのまま収録したけれど、隠された謎の一面を持っているかもしれない。見るたび聞くたびに違って見える、まるで万華鏡ですね。円山町は、人をそんなふうに見せてくれる街でもあります」

取材・文=三浦ゆえ