特集番外編2 2009年7月号

特集番外編2

公開日:2009/6/10

高山さんのこと

編集K

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3月のある日。

高山さんの特集の相談にアノニマスタジオに出かけた。かつて机を並べて一緒に仕事をした同僚、今はアノニマスタジオの代表・丹治史彦氏と高山さんの本の編集ライティングを長い間担当されているフリー編集者の赤澤かおりさん、アノニマスタジオの編集者などでミーティングをした。どんな特集にするのか、ダ・ヴィンチ読者の方々に高山さんの魅力をどのように伝えたらいいかをじっくり話し合った。丹治さんをはじめ、アノニマスタジオのスタッフの方々がいかに高山さんとじっくりと向かい合い、時間をかけてモノ作りをしているのかということがわかって緊張した。

4月のある日。

高山さんのお宅に企画の相談に伺った。窓が全開で気持ちのいい風が入る午前。私は緊張していた。あらかじめ送付させていただいていた企画書をごらんになって、高山さんが「少し、ニュアンスが違う」と電話でおっしゃっていたし、雑誌の進行があまりに急すぎるということも言及されていたからだ。

信頼関係をしっかり築いて、その関係の中で、集中して持てるものを全部出し切る、それが高山さんの仕事のスタイルだと私は思う。そのスタイルは本の佇まいとなって顕れている。果たして、今、私が置かれているこのマイナススタートの状況から、一体何が生み出せるというのか。緊張はさらに高まっていた。

ちょうどそのころ、プライベートでへこむことがあったり、自宅の引越し、子どもの熱、出張などいろいろ重なって、自分的にはいつもにも増してキャパがいっぱいいっぱいな状況だったのだが、そうも言ってられない。

ひたすら打ち合わせでは、自分が思う高山さんの魅力を伝え、高山さんご本人の言葉で否定され、新たな高山さんの言葉を吸収し、高山さんの核となる部分を探した。高山さんは「受け取る人」なので、私の未熟な必死さを受け取ってくださったのか、徐々に方針が固まり企画のタイトル、構成が決まっていった。

決まったら話は早い。隣の部屋から参考になるかしら、と高山さんのメモの箱を大量に出してくださったり、取材撮影当日の段取りやメニューのことやら高山さんの頭の中は急速に回転していく。見ていてその変化がよく分かる。集中力がすごいのだ。とにかく、テンションを一気に上げて、それに向かって全力疾走。予定通りいかなくても、話が面白い方向に転んだらそれはそれ、愉しみながら走る、走る。一緒に仕事をするスタッフは緊張と同時に、快感も味わえる。そうだ、仕事って、愉しいものだったんだ。ものを作るって、愉しいことだったんだ、とはたと思い出す。

高山さんの周りはそんなふうに、高山さんと向かい合い、真剣勝負な方々ばかりだ。今回、原稿を寄せてくださったばななさんや川内さん、原田さん、取材に応じてくださった高橋みどりさんなど、昔からのお付き合いのある方々は、みんな高山さんの真剣を知っていて、お付き合いを大事にされている。「高山さんの頼みだったら断れないね」と、そんな声が聞こえてくる。

久々に、襟をただし、緊張しながら楽しんだ仕事となりました。

企画段階で、ごちゃごちゃと悩んでいた私の小さな気持ちの数々は、あっという間に消えてなくなった。高山さん、すごい方です。直感でいろんなものを吸収する。フランスに行けばフランスの文化を吸収、中国に行けば中国の文化を吸収。時間の問題じゃない。これはカンというか、才能なんだと思う。高山さんの真剣さやその吸収力が、本からにじみ出て、それが信頼につながるんだと思う。料理をするということは、単に調理するだけじゃなくて、その国の文化を知り、歴史を知り、人々を知ることなのだと、高山さんを見ていて学びました。高山さんのように、人として心から信頼できる作り手が作る料理は、食べていて本当においしいのだと、そんな風に思った今回の特集でした。料理家ってすごいですね。本当に。