中国でも大人気! ニコ動的な「弾幕系動画サイト」が広まった理由

アニメ

更新日:2015/6/26

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 中国オタク事情を連載している百元です。第9回はニコニコ動画的なスタイルの動画サイトが現在の中国で広まっている理由などについて紹介させていただきます。

 ニコニコ動画は動画にコメントを重ねて疑似同期的な視聴を行うというのが特徴の一つですが、そのスタイルは現在の中国オタク界隈でも大人気となっています。中国ではニコ動的なスタイルの動画サイトは「弾幕系動画サイト」(「弾幕」はいわゆる「コメントの弾幕」から)と呼ばれており、現在はbilibiliやacfunといった「弾幕系動画サイト」が人気になっています。特にbilibiliの動きは活発で昨年は日本のアニメの正規配信事業にも乗り出すなど、その強力なコミュニティと共に現在の中国オタク界隈において非常に影響力のある存在となっています。そんなニコ動的なスタイルの動画サイトですが、現在の中国においても人気になっている理由については中国特有の事情も見受けられます。

・字幕への慣れ

 まず、中国では動画に字幕が付くことにとても慣れているという点があります。中国では方言が多様なのもあってか一般のテレビ番組にも字幕が付いていることが多いですし、過去に海賊版などを通じて入った国外のコンテンツも字幕版が多数を占めていました。そのため字幕を読みながら動画を見る、動画にコメント字幕が重なることについてあまり抵抗を覚えないそうです。

 それに加えて漢字と字幕の相性の良さ、例えば字幕に込められる情報量の多さ、視認のし易さといったものも大きいそうです。日本のアニメは独自の用語や特殊な用語、専門用語が頻繁に出ますが、漢字の場合、アルファベットと比べて視認し易い上に、全く知らない単語が出てきても内容を想像しやすい、文脈や関連する単語から想像しなければならないというケースがそれほど無いことから、アニメの視聴に慣れていない一般層や、マニアックな知識がそれほど無いライトな層であっても、比較的楽に視聴できるのだとか。

・コメントによる一体感

 コメントによる疑似同期、ある種の一体感を伴う体験というのは日本でもニコニコ動画の人気の理由の一つとなっているかと思われますが、この「疑似同期による一体感」が中国においては日本以上に歓迎されている面もあるそうです。現在の中国ではPC、スマホが娯楽の中心となっていることから、引きこもりとまではいかなくてもインドア派、PCの前に長時間いるような状態の人が少なくありません。そんな環境なので現実社会で盛り上がる機会にも出会い難くなってきているそうです。ニコ動的なスタイルの動画サイトにおける動画視聴は周囲との一体感のようなものを体験できる上に、趣味の重なるオタク同士の交流もできるということで、「動画を見るならコメント付きが良い。弾幕系動画サイトが良い」という考えの人が増えているそうですし、「一度その交流を味わってしまったら前には戻れない」といった人も少なくないそうです。

・知識、情報源としてのコメント

 中国ではその厳格な管理もあってか、ユーザーがネットに情報を集積する、wikiなどを作るという習慣がなかなか伸びず、現在もその方面に関しては他の国に比べて不便な所が少なくありません。それはオタク分野においても変わらず、中国のオタクな人達がオタクな知識や作品に関するネタを調べる際には日本よりひと手間もふた手間もかかったりするそうです。

 そういった状況において、動画に付くコメントは作品に関する知識が集積されるということで、オタク関係の情報源として重宝されていきました。アニメの内容や作中に出てくるパロディの元ネタ、更には作品の楽しみ方や文化的な知識といったものまで、アニメを見ながら手軽にそういった知識を仕入れることもできるということで、動画に付くコメントの「情報としての価値」は結構なものになっているそうです。ちなみにこれはオタク向けの要素の強いアニメがbilibiliなどの動画サイトで配信された際に、他のサイトで配信されるのに比べて話題になり易い、人気になり易い理由の一つにもなっているようです。

・その他大勢でいる居心地の良さ

 最後にもう一つ、中国特有とも言える事情についてを。中国の人には「その他大勢」「群衆」になるのに慣れている、あるいはその立場をクレーバーに活用しているという面があり、それもニコ動的なスタイルの受け入れに影響しているのではないかと思われます。

 この辺りの感覚については中国におけるここ数十年の政治運動などからも伝統が見え隠れしますし、何より中国の今の若い世代は「群衆」という身分での教育に慣れています。例えば学校においては代表者とその他大勢的な扱い、クラスの幹部と一般の生徒といった扱いは珍しくありません。これは私の体験なのですが、私の通っていた中国の現地校で行われたアンケートでは、自分の身分を書く欄がありそこに一般の生徒は「群衆」と書くようになっていたりもしました。他にも運動会においてはクラス単位での入場行進などはあるものの、競技になると選抜された運動選手とその他の応援団という分け方になっていたりもします。

 中国のオタクな人達を見ていると、自主独立的な考えが強く他人にいい様に使われるのは嫌うものの、その他大勢という立場を利用しての言動についてはそれほど抵抗を覚えないような所も見受けられます。またそういった立ち位置での楽しみ方にも慣れていることから、ニコ動的な動画サイトにおいてその他大勢によるコメントで盛り上がるというのは気楽で悪くないという人も少なくないそうです。

 言い方を変えれば、その他大勢扱いであっても、やらされるのではない、自分から参加して盛り上がるならOKといった所でしょうか。この辺りについての積極性は日本のネット以上のような所が見受けられますし、良くも悪くも中国で大きな話題になったり、大人気になったりする作品についても関係しているかと思われます。

文=百元籠羊