「学校なんて行かなくていい」は本当か? 荻上チキ×青木光恵スペシャル対談

出産・子育て

更新日:2016/3/14

荻上チキ、青木光恵が選ぶ 不登校、いじめ問題に解決に役立つ本

荻上チキさんが選んだ3冊

■『ニトロちゃん みんなと違う、発達障害の私』(沖田×華/光文社)

【荻上】 沖田×華さんはマンガ家でもあり、発達障害の当事者です。幼少時代の沖田さん自身をモデルにしたのがニトロちゃんという女の子です。ニトロちゃんは、とにかくこだわりが強くてクラスからも浮いてしまい、いじめの対象になってしまいます。大人からも理解されなかった結果、いじめのターゲットになるだけじゃなく、いろいろな虐待を受けたりもします。発達障害は周りに思っていることをうまく伝えられない、言葉にできない特性があるので、先生に呼び出されて倉庫の中でいつもわいせつ行為をはたらかれる。性的虐待の当事者でもありますね。

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 そうした状況で迎えた中学3年の時、良い先生に出会ったんです。その先生は発達障害に理解があるわけではないですが、他の先生におかしいと思うところがあったら、先生その指導はないと思いますよ。って、言ってくれたり、トラブルがあったら落ち着けって、言ってくれたり。こういう大人もいるんだ。と思いながらニトロちゃんは中学を卒業します。

 9割が不幸で埋め尽くされているマンガなんですけど、誰にとってどう生きにくい仕組みが学校空間にあるのかを漫画を通じて自覚させてくれます。このマンガを通して、発達障害などのさまざまなハンディキャップを抱えている子どもが通常学級に通っていて、そうした学校の中で躓きやすい石があちこち転がっていないかを気付くきっかけにしてほしいと思いますね。

 

運動部活動の戦後と現在

■『運動部活動の戦後と現在 なぜスポーツは学校教育に結び付けられるのか』(中澤篤史/青弓社)

【荻上】 日本の先生は他の国の先生に比べて働いています。でも、統計を見ると生活指導や授業時間に関しては他の国の平均より少ないんです。どこに時間を割いているのかというと事務処理や、部活動の対応です。

 日本は学校の先生が部活動の担任もしなければいけないんですね。これは他の国と比べても特殊です。指導者になる先生がそのスポーツの経験がない場合も多いわけです。それは、生徒のケガの原因にもなるし、体罰の要因にもなります。また先生たちの過労にも繋がります。

 そうした特殊な部活動の実態を、戦後どういう風に整理してきたのかということが書かれているのがこの本です。最近だと部活動は地域に開いて先生がやるのを止めようという議論もあるけれど、それも上手くいっていない。じゃあ、どうしようっていう問いかけを投げかけている一冊ですね。

 地域の中心が学校だというのはこれからも変わらないと思いますが、学校から荷物をおろしてやる時期だと思うんですよ。今までの教育改革は学校に対してあの荷物もこの荷物もという風に押し付けてきたんです。かといって、家庭は教育から解放されるのかというと、家庭にもいろんな義務が課せられてきた。学校や家庭が荷物を背負い過ぎている状況にあります。それをもう少し分散するための議論をはじめようという提案をこの本はしています。

 

デモクラティック・スクール

■『デモクラティック・スクール 力のある教育とは何か』(マイケル・W・アップル、ジェームス・A・ビーン 著、澤田稔 訳/ぎょうせい)

【荻上】 デモクラティック・スクールは、フリースクールとはまた違う形態の学校です。その名の通り民主的な学校なんですね。カリキュラムをどうするのか、校則をどうするのか、どんな授業をするのか、を生徒が選ぶんです。選ぶだけじゃなくみんなで会議して決めるんですね。例えば、歴史の授業でこんな話になった。じゃあ、専門家の人に来て話してもらおう、じゃあ、どの人を呼ぼう、というのもみんなで調べて話をします。

 三者面談ならば、先生と保護者が話をして生徒に対して「一緒に頑張ろうな」と言うのが一般的です。デモクラティック・スクールの三者面談は子どもが主導して先生に対してはこうしてほしい、親に対してはこうしてほしいと伝えます。子どもがプレゼンする面談になっていて、どんな勉強すればいいか先生に聞いたり、そのためにお金は出せるのか親に聞いたり、あくまで民主的です。今までの学校は権力モデルで、先生が中心となり一方的に指導を行っていたんですけど、子どもがいろいろ参画しながら自分がどうしたいかっていうことを発信し、それをサポートするための教育を行います。

 多文化教育とか非差別教育とかに力を入れ、異なる人種や宗教の人を来やすい学校づくりにしています。これを今すぐ日本の公立学校で行うのは無理だと思いますけど、今ある学校教育が一つの完成形で最高のものではないんだというのを教えてくれます。それと同時に、今があまりにも児童にとって選択肢が狭いと言うのもわかります。

 デモクラティック・スクールは、クラス制度もないし、学年制度もないんですよ。5歳から18歳まで同じ教室でそれぞれ授業を受ける。そもそも学年というのが必要あるとかないとか、そういうことを投げかけていますね。

 

青木光恵さんが選んだ2冊

子どもは家庭でじゅうぶん育つ

■『子どもは家庭でじゅうぶん育つ―不登校、ホームエデュケーションと出会う』(東京シューレ/東京シューレ出版)

【青木】 私はためになったというよりもこんな世界もあるんだなと思いました。学校に行かなくって家で教育を受けたり受けなかったりする本です。

 放っておいてもそのうち興味を持ったら自分で勉強するという例をまとめてあります。ある意味、こんなに自由な考え方もあるんだと思います。

 学校には行かなかったけど、カメラマンや音楽家など、自分の能力を活かせるような仕事について頑張っている人の話が多く載っていますね。

 不登校の道の1つを示す本です。私はこれを読んで実践したわけじゃないんですが、選択肢としてもこういう道もあるんだなと思いました。

 

いじめの直し方

■『いじめの直し方』(内藤朝雄、荻上チキ/朝日新聞出版)

【青木】 メモをつけろとか、写真を撮れとか、いじめにあった時にどうすればいいか具体的なことが書いてあります。

 私は、この本に書いてあることは身をもって学んだのでもっと早く読んでおけば、いろいろなことに対応できたと思います。

 もっと被害を訴えたり話を大きくすれば良かったなと後悔しているんですよ。『中学なんていらない』にも書きましたけど、仕返しだってしてやりたかった。いじめっ子に腐った牛乳をかけたり、本当にしたかったんです。今思えば、頭おかしいと思われても、たとえ警察に連れて行かれることになっても(笑)やれば良かったと思うんですけどやれなかった。娘のために全てをやりきった感が全然ないんですよ。戦った感が全然ないんです。頑張ったよりも飲み込まれてしまったところが大きいですね。仕返しとかいう手段は置いておいても、もうちょっと何かができたのではないかという後悔がすごくあります。

 高校には入れたけれど、最初に希望を考えていた家から近い公立高校はいけなかった。諦めて確率的に高いところを選んだんですよ。その時点で、選択肢が絞られちゃったんですね。

 娘の不登校を経験したことで、無料で教育してもらえること自体がすごいことだと思いました。家でやろうと思ったら無理だし、全てをやったらこっちがおかしくなってしまう。でも、そういったこともこの本に全て書いてあった。本当に早く読みたかったです。

取材・文=舟崎泉美