“発信力”が問われるアイドル群雄割拠時代と生き残りの秘訣を書籍から読み解く【前編】

更新日:2015/3/28

   

 2010年前後から叫ばれ始めた「アイドル戦国時代」の到来。一説によればその一角を担うアンジュルム(発言当時・スマイレージ)の福田花音が放った言葉といわれるが、アイドルを追いかける人たちはもちろん、いまや一般層にも広く知れ渡っているのはいうまでもないだろう。戦国時代に続く「群雄割拠」というキーワードもメディアでは多く聞かれるが、そもそも多種多様な様々なアイドルグループが誕生しなければこうした言葉は使われない。

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 特に目立つのは女性たちの活躍だ。育成の組織化とメンバー入替えによりアイドルの刹那性を乗り越えた老舗・ハロー! プロジェクトはもちろん、総選挙や握手会というビジネスモデルを確立させたAKB48から派生した48系列、大舞台への羽ばたきをドラマのように描き続けたももいろクローバーZ(以下、ももクロ)をはじめ、たくさんのユニットがしのぎを削り始めた。

その流れを受けて、出版業界でもアイドルをテーマにした関連書籍を数多く見かけるようになった。様々な場所で活躍するアイドルたちと同じく、まさに「群雄割拠」の様相をみせているが、現在、どういったものが刊行されているのか。4つの類型にもとづき前編・後編に分けて紹介していく。

■演じるだけではなくグループやアイドル本人の“個性”が強く求められる時代に

 冒頭でも述べた「アイドル戦国時代」。特徴にあるのはグループとしてのアイドルが乱立したという背景である。過渡期ともいわれる現在では、さくら学院の卒業生・武藤彩未やテレビで見せた歌唱力が話題を集めた吉田凜音など、ソロアイドルへの注目が高まりつつあるが、アイドルグループの隆盛はいまだ健在であるという見方は強い。

 また、昭和から平成初期までのアイドル像とは一気に変化した印象もある。当初は「大人の作り出した世界で求められた役割を演じる」というイメージのあったアイドルだが、現在では“個性”が求められるようになった。例えば、AKB48が「会いに行けるアイドル」、ももクロが「全力」という文脈と共に語られる機会が多い状況を考えれば、グループごとのコンセプトが重視され、さらに所属するメンバーの個性にもより強くスポットが当てられるようになった。

 ブログやSNSでファンとの距離がより近づいた現代のアイドル業界においては、時に自分をさらけ出すのも支持を集めるための武器になる。HKT48・指原莉乃の著書『逆転力~ピンチを待て~』(講談社)は、その最たる例といえる。AKB48加入からの来歴やHKT48劇場支配人としての役割、アイドルとして御法度のスキャンダルすらネタにする姿勢を、みずからの言葉で克明に語っている。同書ではSNSでの炎上についても言及、「アンチが多い」とする前提のもと持論を述べているが、アイドルが意思を持ち何かを発信するという現代の様相を語る上では特筆すべき存在といえる。

 また、メンバーの個性は「アイドル」という言葉自体はもちろん、比較的想起しやすい「音楽」「ライブ」といった近しいジャンルにとどまらない支持を集めるための武器にもなりうる。私立恵比寿中学(以下、エビ中)・廣田あいかのDVDブック『ぁぃぁぃと行く日本全国鉄道の旅』(ワニブックス)や乃木坂46白石麻衣のフォトブック『MAI STYLE』(主婦の友社)は、それぞれの趣味やキャラクターを前面に打ち出している。

 アイドルの写真集といえば、水着のグラビアがまず一番に思い浮かぶ。しかし、阪堺電気軌道(通称・チン電)との協力による、廣田の乗車レポートや車両基地見学をまとめた同書は、彼女の趣味に特化した内容となっている。テレビ番組『タモリ倶楽部』の鉄道企画でも認知度を高めた廣田はかねてより「鉄ヲタ」を自称しており、グループ内でもソロ曲『ぁぃぁぃと行く日本全国鉄道の旅』を歌うなど、自身の趣味嗜好を武器に代えている。

 一方、白石の『MAI STYLE』は女性誌『Ray』でモデルとしても活躍する彼女の歩みに迫るだけではなく、ファッション性を重視した本人のキャラクターを打ち出す構成になっている。先の「アイドルの写真集=水着のグラビア」というイメージからみえるのは、ファンが男性であるという背景だ。しかし、本人の私服やメイク、スタイリングなどもまとめられた同書は、写真の見せ方やレイアウトも異種独特で、アイドルを愛でる女性たちの顔も思い浮かぶ。

 また、趣味や生き様、ビジュアルといった分野だけではなく、政治的関心や学問という思想を武器にしたアイドルも存在する。AKB48・メンバーの内山奈月である。九州大学法学部教授とタッグを組んだ書籍『憲法主義』(PHP研究所)は、慶大生で「憲法暗記」を得意と自称する内山の個性を発揮させたものだ。講義形式で取材時に描かれた内山の直筆ノートも挟まれるという構成だが、政治の仕組みについても言及された一冊である。

 近年は「◯◯アイドル」といった形で様々なコンセプトを打ち出すグループないしメンバーも多々みられるが、固く難しいイメージもつきまとう政治の分野にまでアイドルが進出したというのは、アイドルというジャンル自体の一般的な認知が高まったと共に、その言葉にみられる親しみやすさやなじみやすさを効果として狙ったようにもみえる。


■アイドルをもっとも近くで見守る存在“関係者”が表舞台に立つ

 ライブだけではものたりない。ブログやSNS、各所に散らばる情報だけではなく、もっと本人たちのことを知りたい――。ファンにとってはごく当然の欲求である。だからこそ本人発信の情報を必要とするのだが、その一方で、身近にその成長や活躍を支えてきた関係者たちの発信する情報にも注目はそそがれている。

 近年は彼女たちの周囲を取り巻く人たちへの関心も高まっているが、平成の時代を振り返れば、小室哲哉やつんく♂などをきっかけとして「プロデューサー」という言葉が一般に浸透するようになり、また、ももクロやでんぱ組.inc、エビ中などの楽曲を手がけるヒャダインこと前山田健一の名前を目にする機会も多い。

 そして、いまやアイドル業界を語るのに欠かせないプロデューサーといえば、秋元康である。書籍『AKB48の戦略! 秋元康の仕事術』(アスコム)では、晩年にしてAKB48の虜になったという田原総一朗との対談を通して、AKB48誕生の経緯や総選挙、じゃんけん大会などをふまえた“発想”の原点を掘り下げている。グループを知るための側面はもちろんだが、ビジネスにおけるヒントを提供する構成となっており、その裏にはアイドル業界そのものが一つの大きな“市場”として認知された現況も垣間見える。

 一方、ももクロのマネージャー・川上アキラが綴った書籍『ももクロ流』(日経BP)では、グループ自体の生き様が老若男女の目頭を熱くさせる中で、彼女たちの「全力」という言葉の裏にあった汗と努力の物語が淡々と綴られている。時系列的に国立競技場までの歩みを綴り、メンバー個々との対談を交えて展開していくが、自身はあくまでも「『人』を担当するマネージャー」であると語る川上の存在があり、コンテンツそのものを生み出す“プロデューサー”とは違った視点から彼女たちの歴史が描かれている。

 また、ステージで輝く姿からは日頃からの絶え間ない努力もみえてくるが、アイドルの育成に関わる振付師の本も散見されるめだつ。モーニング娘。やAKB48など、数多くのグループを指導してきた夏まゆみの書籍『エースと呼ばれる人は何をしているか』(サンマーク出版)では、アイドルにおいてはグループの中核を担う“エース”という存在を引き合いに出し、実際の記憶をたどりながら、ビジネスなどの場面で“成長”を強く願う人たちへのメッセージが込められている。

 対して、PASPPO☆やアップアップガールズ(仮)などの振り付けを手がける竹中夏海は、2012年に刊行した『IDOL DANCE!!! 歌って踊るカワイイ女の子がいる限り、世界は楽しい』(ポット出版)で、自身の立場をふまえたダンスという側面からアイドル文化について言及。さらに、2015年1月発行の最新刊『アイドル=ヒロイン 歌って踊る戦う女の子がいる限り、世界は美しい』(ポット出版)では、女性アイドルグループに対する同姓ファンの拡がりをテーマに、ライブという現場を軸にしたアイドル論を展開している。

さて、ここまでは本人や彼女たちを近くで見守る関係者たちの書籍を元に、アイドルを取り巻く概況を描いてきた。いわば「中からの視点」に的を絞ってきたが、【後編】では識者や専門家による分析、そして、ファン目線という「外からの視点」にもとづくものを紹介し、アイドル業界のいまを読み解いていく。

取材・文=カネコシュウヘイ

特集「メディア化する超(スーパー)アイドル。」


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