“オワタ\(^o^)/”な人も“プチ変態女子”も癒される! 異色のウェブマンガ『トーチweb』

マンガ

公開日:2015/3/31

 無料でマンガが読めるなんともありがたい時代になった。雑誌の派生型や独立系など、様々なスタイルがあるなかで、目が離せないウェブマンガがある。その名も「トーチweb」。『ゴルゴ13』(さいとう・たかを)や時代劇マンガでおなじみのリイド社が手がけているサイトである。といっても、歴史ものや激しいバトルではなく、ゆる〜くお疲れ系女子にこそハートに突き刺さる内容なのだ。

 なぜ目が離せないかというと……。その雰囲気は、“癒やし系クレイジー”といえようか。他のウェブマンガとは一線を画した存在なのだ。そのことは、トーチ編集部からのメッセージからも、感じ取れる。

「“トーチ”は英語で書くと”torch”、”たいまつ”のことです。
『未だ見ぬ表現』と『自分たちの老後への道筋』を探し、光をあてる(発信する)ために」

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 なぜ、「未だ見ぬ表現」と「老後」が、並列なの!? このコンセプトだけでも驚いてしまう。しかし、このクレイジーさは、作品ではさらに爆発!

窓ハルカという、安定のヘンタイ感!

 まず、窓ハルカという作家は、本当におかしい! 普通のスケールでは計れない倒錯的世界観を持っている。

 サイトで連載されていた、『俗の金字塔』という作品。これはツンデレなゆかりに好かれる男、野中。そしてゆかりに憧れを持つ、後輩の美咲。3人の微妙な人間関係を描いている。少女マンガでもよく見る、“ツンデレカップル”、ときどきライバル……と思いきや。

 ゆかりは、先天的ドSで、野中の“大事なところ”を徹底的に調教。野中もまたその調教を喜んで受け入れる。そして後輩の美咲は、ゆかりに百合的好意を抱く。ときにストーカーちっくに、ゆかりを追いかけている。

 登場人物は、ヘンタイだらけ! けれど不思議なことに、ほのぼのしてしまう。普通の高校生が戯れているかのような、安心感で読めてしまうのだ。現在は、新連載準備中とのことだが、同人誌として発表した『名も無き一夜のファンタジー』を特別に公開している。ほほえましいヘンタイワールドをさらに堪能できそうだ。

▲窓ハルカ『俗の金字塔』

“オワタ\(^o^)/”な人生にも光刺す『みちくさ日記』

 また4コママンガ、道草晴子の『みちくさ日記』。これはいろんな意味で“オワタ\(^o^)/”な自伝的マンガなのだが、その人生は壮絶。13歳で「ちばてつや賞」を受賞し漫画家としてデビュー。華々しい人生の始まりかと思いきや、翌年に精神科病院へ入院。20歳まで入退院をくり返す。そして成人しても、前科者の“おっさん”と付き合ったり、障害者の作業所をクビになったり……。

 作中で「私の人生は出オチ」だったと回想するように、“一般的ルート”からは、遠くかけ離れた、異端な人生を送っている。しかも現在進行形!
 カラー原稿は、たいがいはみ出ているコピックの着色。ネームは、すべて手描きのヘタウマのタッチ。たまに、モノクロ原稿なのは、作者の気分にムラがあるからなのだろうか……。

 この“オワタ\(^o^)/”なマンガも、「気分が落ちる」「身をつまされる」といった、ネガティブな気分に不思議とならない。著者が日常の小さな出来事にも希望や発見を見いだし、客観的視点で描いているからだろうか。

▲道草晴子の『みちくさ日記』

夢破れた人すべての心に浸みる

 このほかにも『スペシャル/平方イコルスン』も味わい深い。なぜかいつもヘルメットを被っている女子高生が描かれている。こんなおかしなこだわりを持った人、クラスにひとりはいた経験は誰しもあるはず。

 さらに第18回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品『ファンタスティック ワールド』(ひらのりょう)も桁はずれの世界観を繰り広げている。主人公は、森の中でひとりぼっちで暮らす少年ビコ。彼の前にある日友達が現れた。その名も「歯ちゃん」。“歯”なのである。かわいらしさのなかにも、シュールな世界観が繰り広げられている。

 そのほかの連載陣も、一般的マンガとはまるで違う、突き出た視点ばかり。

 トーチの作品が、心に沁みるのは、“世間一般”からはずれ、“夢破れた”的感傷の琴線に触れる……、いや突き刺さりまくるから。誰もが持つ、これらの感情を、普段はひた隠しにして生活しているはず。けれど「トーチ」のマンガは、隠していた感情を揺さぶる。でも、ただ揺さぶるだけではなく、安心感も抱かせてくれるのが素晴らしい。

 だから、どの作品も「いや、おかしいでしょ!」っとツッコミを入れつつも、「うんうん、そうだよね」と共感して安心して読み終えられる。

 リア充のラブストーリーや、リアルすぎるバリキャリマンガでは心が癒されない、そんなお疲れ女子の癒やしのマンガである。一度はマンガ離れした人にこそ「トーチ」は沁みるはず。残業後の疲れた一日の締めくくりに読みたい。

■ウェブマンガ「トーチ
Twitterもユルいツイート満載

文=武藤徉子