書き出しは無限の可能性!? 書き出しだけの小説集が斬新かつ秀逸!

文芸・カルチャー

2015/4/1

小説というのは、起承転結や伏線、キャラクターの心情や物語の展開を楽しむもの。始まりから終わりまで、書き手によって紡がれている。そんな常識を完全に打ち壊す、斬新すぎる小説集がある。その名も『書き出し小説』(天久聖一:編/新潮社)。この本、なんとタイトル通り、書き出しのみしか書かれていない小説で構成されている。例えば「朝顔は咲かなかったし、君は来なかった。」以上。主人公や“君”の説明もなければ、一体何が起こったのかも一切書かれていない。しかし、だからこそ、想像力を掻き立てられる。悲しく孤独な朝、とも取れるが、もしかしたらこの朝顔が咲くことで何か不吉なことが起こるのかもしれないし、“君”は危険人物かもしれない。現在かもしれないし、過去かもしれない。この一言では物語は確定的でなく、無限の可能性を秘めている。

本書には、書き出しだけで笑ってしまうものや、思わず読み返して考えてしまうものがたくさん詰まっている。そんな夢のつぼみのような書き出しの中から、いくつかピックアップしてご紹介しよう。【自由部門】は何でもあり、【規定部門】はお題に沿った書き出し小説となっている。

【自由部門】
●晶子はわざわざはしごまで歩いて行き、つまさきから音も立てずにゼリーの中に沈んでいった。(P.16)
晶子は一体何者で、ゼリーの中には何があるのだろうか。いろいろと気になりすぎる。

●メールではじまった恋は最高裁で幕をとじた。(P.27)
普通の小説であれば、これからドロドロとした愛憎劇が描かれるのだろうが、一体何があったのか、このあとどうなるのかは読み手次第。

●母が指を鳴らすと、手作りのペガサスに乗った父が登場した。(P.56)
突っ込みどころが多すぎて、もはやどこに突っ込めばいいか分からない。一体どんな状況なのだろうか。

●ハトが乗り、次で降りた。(P.59)
このハトが一体何者なのか、延々と考えてしまいそう。

【規定部門】
●「もうイヤっ!! パパなんて大ッ嫌い!!!」煙玉を地面に叩きつけ、シゲ美は走り去った。(P.109/忍者)
忍者は親子喧嘩も一味違う。きっと家はからくり屋敷なのだろう。

●母は新しい母とハイタッチを交わして、去って行った。(P.135/母)
母と新しい母の素性、そして他にも母がいるのかがものすごく気になる。

●視線を交わしあえるのは、いつも土俵の上だけだった。(P.160/ボーイズラブ)
まさかの力士同士のボーイズラブ。この発想はなかった。

●「体罰はなかった」と閻魔は主張した。(P.173/地獄)
地獄はやはり、ブラックなようだ。こうして地獄は地獄として続いていくのだろうか。

他にも、気になる書き出しがまだまだあった。ただ読むだけでももちろん楽しめる内容だが、この書き出し小説をもとに自分オリジナルの小説を創造してみると、世界が変わりそう。気が付いたら、何気なく聞こえた一言から物語が生まれる能力が身につく……かもしれない。

文=月乃雫