「第3回角川つばさ文庫小説賞」受賞作決定!本上まなみさんからの選評も

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/21

 2015年3月29日(日)に「第3回角川つばさ文庫小説賞」(主催:角川つばさ文庫小説賞実行委員会)の贈賞式が開催された。同賞は、子供たちにもっと読書を楽しんでもらいたい、という願いを込めて2011年9月に創設された小説賞で今回が3回目。「一般部門」「こども部門(中学生以下)」「イラスト部門」の3部門が用意されている。

今回の授賞式では「一般部門」より2作品(大賞1作品、金賞1作品)、「こども部門」より作品30(グランプリ2作品、準グランプリ1作品、特別賞5作品、入賞22作品)、「イラスト部門」より2作品が表彰された。「一般部門」受賞の2作品は、2015年秋にKADOKAWAから刊行される予定だ。

●一般部門
<大賞>
『超吉ガール ~コンと東京十社めぐりの巻~』遠藤まり(投稿時P.N燕藤まり)
受賞コメント
「超吉ガール」は不器用な主人公がご朱印を集めながら、友だちといっしょに世界を広げていく、きっかけの物語です。時に迷いながら、それでも前進していくと、思いがけない出来事が待っている。お話を書いた私自身が今、身をもって、実感しています。この気持ちを胸につばさ文庫が大好きな人たちの元へ、心ゆさぶる物語をお届け出来るよう、書きつづけて参ります。

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<金賞>
『名推理はミモザにおまかせ!』月 ゆき
受賞コメント
私がミステリーと出会ったのは、小学二年生のとき。『8・1・3の謎』を読んだのが最初です。その日以来、夢中になってミステリーを読んできました。かつての私と同じように、このお話を読んだ皆さんにも、わくわくして楽しんでもらえたなら、こんなにうれしいことはありません。本の世界へ通じる扉を開くお手伝いができるよう、がんばっていきたいと思います。楽しい謎のあるふしぎな世界で、主人公たちといっしょに思いっきり冒険してみませんか?

●こども部門
グランプリ 『迷子屋』 相川 貢(小3)
グランプリ 『フタのマネーゲーム』 久世禄太(中3)
準グランプリ 『ここは四階妖怪診療所』 藤井早紀子(小5)

●イラスト部門
大賞 該当者なし
入選 水玉ひよこ、つくぐ
佳作 鯱子、徳田ゆえ、比良伊吹、夏八

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選考委員 選評

本上まなみ

本上まなみ 『超吉ガール ~コンと東京十社めぐりの巻~』は、最も胸キュン度の高い作品。中学生女子のとてもリアルな挫折とそれを乗り越えていく成長物語として読める感動作だと思います。「あの頃」の女子の気持ち、男子の気持ち、亡くなった「おばあちゃん」を思う気持ち等々が丁寧に描かれています。小学校と中学校時代、二種類の親友たちのキャラクターも立っていて、さらには物語を支える東京十社めぐりやそれぞれの街の様子、ご朱印集めなど、舞台装置もちゃんと取材、確立され、色や音、匂いがダイレクトに伝わってくる小説でした。
『名推理はミモザにおまかせ!』は、最も可愛らしい作品。小学生女子が大歓迎しそうなファンシーワールドです。架空の村、キュートでスマートなヒロイン・ミモザの連作プチ推理ものというのもいい視点。ひとつひとつのお話が完結しつつ、連作として次第に大きな事件へとうねっていくという展開が巧いと思いました。シリーズ化も視野にいれられる既に世界が確立している小説だと思いました。

あいはらひろゆき

あいはらひろゆき 今年もすばらしい作品にたくさん出会えて、楽しい選考となりました。まず、大賞の『超吉ガール ~コンと東京十社めぐりの巻~』ですが、この作品の何よりの魅力は等身大の友情をしっかりと描いている点にあると思います。学校の中だけのうわべの友情に飽き足らなかった主人公はご朱印集めを通じて友だちと深くかかわっていきます。そして、コンと友人のけんかにも触れて「友だちと真摯に向き合うことの大切さ」に気づいていきます。ティーンエイジャーにとって友だち関係は最もむずかしく、かつ重要な問題です。そのテーマに素直に向き合った姿勢はとても好感が持てました。大賞おめでとうございます。
続いて、金賞の『名推理はミモザにおまかせ!』です。この作品はとてもファンタジックで、かつシャーロック・ホームズばりの推理や謎解きもあって、ともすると海外の作品かと思わせる空気感が漂うステキな作品です。今までの「つばさ文庫」にはない、新しいスタイルの作品として注目されるのではないでしょうか。ただ、あえて言わせてもらうと、ラストの展開をもう少しひねってくれればなおよかったのではないかと思います。

宗田 理

宗田 理 『超吉ガール ~コンと東京十社めぐりの巻~』の、今どきの中学生が神社でおみくじを引くという出だしには、ちょっとびっくりしたが、これはぼくの認識不足で、最近は神社でおみくじを引くどころか、ご朱印を集めることが流行になっているらしい。東京十社の描写と、そこで繰り広げられる友だち同士のやりとりは読んでいて楽しい。ご朱印集めというアイディアに加えて、中学生の生活感と神社のディティールがよく描けていた。タイトルは一考の要あり。
『名推理はミモザにおまかせ!』は、主人公の推理好きの女の子と、白いマントの少年とが、競い合いながら事件を解決していく様子がテンポよく描けていておもしろい。現場に残された謎の文字から死神を突き止め、女王の暗殺計画あたりの後半から前半の勢いがなくなってしまっているように思う。小学校中学年向けのミステリー入門としておもしろいのではないか。

「角川つばさ文庫小説賞」とは
2009年3月創刊。「次はどんな本を読もう?」そんな子どもたちの「読みたい気持ち」を応援する、KADOKAWAが発行する児童文庫レーベル。KADOKAWAの持つコンテンツや読者を楽しませるノウハウを子どもたちのために駆使し、青春、冒険、ファンタジー、恋愛、学園、SF、ミステリー、ホラーなど幅広いジャンルの作品を刊行しています。レーベル名には、物語の世界を自分の「つばさ」で自由自在に飛び、自分で未来をきりひらいてほしい。本をひらけば、いつでも、どこへでも…そんな願いが込められています。主な作品に『ぼくらの七日間戦争』『新訳 ふしぎの国のアリス』『怪盗レッド』『五年霊組こわいもの係』シリーズなど。毎月15日発行。
⇒角川つばさ文庫小説賞公式ホームページ