戦後日本の社会構造はこうなっていた! 内田樹×白井聡による極論疾風怒濤の対談集

社会

公開日:2015/4/6

 その昔、「戦争を知らない子供たち」というなんとも牧歌的なフォークソングがあって、桂三枝(現文枝)がやっていた深夜放送の特別番組を見に夜中にTBSホールに駆けつけ、フォークバンド・ジローズのこの曲を生で聴いたことのある不埒な中学生だった私だがそれはさておき、戦争と対峙する形での平和の歌を歌った当時にくらべて、下手すると日本はアメリカと一緒にドイツと戦った、と思い込んでいる人が出てきてもおかしくない、今の平和はどんなふうに口ずさまれるのだろうか。と疑心暗鬼にとりつかれている諸氏には本書『日本戦後史論』(徳間書店)である。

 哲学研究の幅を大きく超えて各界で八面六臂の活躍をみせる内田樹氏と、『永続敗戦論 戦後日本の核心』(太田出版)で話題を呼んだ政治学者・白井聡氏との、刺激的な対談集である。何が刺激的かって極論の疾風怒濤なのだ。いや、悪い意味じゃなくて。

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 たとえば、「日本はアメリカの属国である」。とか。内田氏によれば、属国に甘んじていないで日本は早くアメリカの51番目の州になればいいのに、なんて言う。すごいじゃありませんか。誰もが無意識のうちに何となく想像して暗いところから悶々の手が喉のあたりをくすぐっていた思いを、それはまあ今ちょっと自分の立場からはまずいので思想的には反対としておいて…、そんな風に、なかったことにしていた「もしや」をあからさまにしてしまう。あからさまのパワーをあらためて実感してしまうのが本書なのだ。

 だったら、誰がそんな日本を作り上げたのか責任者出てこいとなるわけですが、これがアメリカなんです。戦争直後のGHQが日本を自由主義にとどまらせるべく、戦争を支持していた人々をそのまま支配的な地位にとどまらせた。そのことによって徹底的にワヤクチャに負けた戦争をしっかりと「負けた」と認識しないあやふやな国民に日本人を操作した。権力を振るいやすいようなところへ日本を置いた、と。わたくし個人としては、日本人は、たとえば江戸時代を見れば分かるとおり、いいから加減で、先っ走りでおっちょこちょいで無責任だと思うのではありますが、お2人のやりとりは、とどまるところを知らず紙面を駆ってゆくのです。

 原発問題にも触れられる。原発は火力や水力より経済的に安上がりだから推進しようとしているのではない。原発のリスクを高めて、次に事故があったらもう日本は住めなくなるかも知れない。だから再稼働に前向きなのだ。つまり、無意識に破局、それも、とてつもなく巨大な破局を求めている。そうしてこれを日本全般にひろげて、日本人は潜在意識的に破滅願望を抱えた国民なのだと…。また、これを「ゴジラ」にたとえたとこが面白かった。「ゴジラ」が海から上がってきて、吉野家・築地店だけをそっと踏みつぶして凱旋しても誰も喜ばないのであって、やはり東京全土を火の海にしてもらってこその喜びであると主張なさる。どうせ壊れちゃうならひと思いにでっかく壊れてほしい願望があるというわけだ。やはり極論である。しかし極論にはどうしようもなく人々を魅了するエネルギーがあるものだ。

 同時期に読んでいた本にやはりゴジラのことが書かれていて驚いた。恩田陸氏の『EPITAPH東京』がそれで、恩田はゴジラの破壊は東京という都市への一種のお祓いだと述べていた。恩田氏の悼む心と、本書、白井・内田氏の破滅願望説と、日本人の無意識下にうごめく獣に、未来はあるのだろうか。

文=岡野宏文

日本戦後史論』(内田樹、白井聡/徳間書店)