コミュ障?の勇者が主人公で人気のあのスマホRPG、まさかの小説化!

文芸・カルチャー

2015/4/11

そのゲームは、主人公の勇者がある日、王様に呼ばれるところから始まる。王様の用件は、魔王を倒してほしい、との頼みだ。もちろんその日は、勇者の誕生日。RPGの定番である。王様のもとへ行き、話を聞いていると、途中から様子がおかしくなってきた。

言われてみれば、確かに……。

王様「聞けばそなた、普段から、はい、いいえ、と最低限のことしか話さぬらしいな」

……ごもっともである。世の中のたいていの勇者は、「はい」「いいえ」しか喋らない。日本を代表する勇者は「はい」「いいえ」のみでアレフガルドを旅し、竜王を倒した。そういうものなのだ。

これは『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』というスマホゲームの冒頭部分。圧倒的にコミュニケーション能力に欠ける主人公の勇者が、魔王討伐の仲間を募るゲームである。「はい」「いいえ」しか言えない勇者にとって、初対面の人を仲間に勧誘するのは至難の技。うまく喋れず、傷つきながら、コミュニケーション能力をレベルアップさせていき、仲間が増えていくと同時に、勇者がコミュニケーション下手になった理由が徐々に明らかにされていく……。このゲームが、小説化されたのである(原作:SYUPRO-DX、小説:横田純)。

舞台は、洞窟でもなく、塔でもなく、なんと酒場。出会いと別れの、あのどこかで見たような酒場である。もちろん、モンスターは出てこない。だが、「はい」と「いいえ」しか言えない勇者にとっては、酒場にいる見ず知らずの冒険者との会話がもはや“戦い”。「勇者の一族はだいたい十代のうちに旅立つのに、仲間を集める場所が酒場っておかしくないか。カフェとかじゃダメだったのか」だの、「王様から餞別として五十ゴールドと銅の剣をもらったけれど、五十ゴールドと銅の剣で魔王を倒せるわけがないよね」だの、ぶつくさ言いながら、勇者はイヤイヤ勧誘を始める。

酒場にいる人に話しかけると、会話という“戦闘”が始まり、その相手の心に響く言葉(じゅもん)をとなえる。成功すれば仲間になってもらえるが、失敗すると相手から「近くに寄らないで」「お前弱そうだな」などと悪口を言われ、精神的なダメージを受ける。ダメージを受けすぎると、RPGよろしく死んでしまう。

よくよく考えてみるとだ。確かに、世の中のRPGには不条理が多い。酒場に行き、ただボタンを押すだけで機械的に仲間を連れて行けるのは、おかしい。そんな出会ってまもない者同士がどうして魔王退治などという重要なプロジェクトをともに進められようか。もともと顔見知りだった会社の同僚だって、数年来の友達だって、何らかのプロジェクトに協力してほしいときは、一緒にやるにあたって説得が要る。「はい」「いいえ」しか言えなければ、モンスターとの戦いでもチームプレイなど到底上手くできなかろう。実にこの作品、理にかなっている。

勧誘する仲間のプロフィールや、覚えたじゅもんリスト
 仲間の勧誘を続ける中で、勇者は「相手に向かって発するコトバ、そのすべてが呪文なんだ」「コトバで言わないと気持ちは通じない」と、「はい」「いいえ」以外の言葉のチカラを学んでいく。

勇者が他人と上手く話せないのは、マイナスな方向に自意識過剰であり、その反面、誰かにスゴイと思われたい、ちやほやされたい、という自己顕示欲も人一倍強いから。「目立ちたいけど、変に目立ちたくない。みんなに認められたいが、できれば一人にして欲しい。この自己矛盾も、僕を苦しめる要因の一つなのだと思う」と自己分析する勇者。こんなおかしなタイトルなのに、こんなおかしな設定なのに、ところどころ身に覚えのあることにドキリとするうちに、この世界観の虜になっている――『あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね』はそんな作品である。最後まで読み進めると、悔しいかなちょっぴり涙腺が刺激される仕掛けが待っている。まだ魔王を倒すどころかモンスターと戦ってすらいないのに、だ。

文=朝井麻由美