「第19回手塚治虫文化賞」大賞受賞の『逢沢りく』が泣ける! 号泣必至のラストとは…

マンガ・アニメ

2015/4/16

 マンガを読んで号泣した、という経験を持つ人は、果たしてどれくらいいるだろうか。なかには、「映画や小説ならまだしも、マンガで泣くなんて…」と思っている人もいるかもしれない。そんな人にこそ読んでもらいたいのが、このたび「第19回手塚治虫文化賞」で大賞に輝いた、『逢沢りく』(ほしよりこ/文藝春秋)だ。本作は、家政婦として働く猫の姿を描いた『きょうの猫村さん』(マガジンハウス)で大きな話題を集めた、ほしよりこ氏による長編マンガ。これが、とにかく泣けるのだ。

 主人公の逢沢りくは、周囲から一目置かれている14歳の中学生。オシャレでやさしい父親と完璧主義な母親を持ち、一見するとまさに理想的な家庭環境で生まれ育った女の子だ。ところが、彼女の心にはぽっかりと穴があいている。父親は会社のアルバイトの女と浮気をしており、母親はそれに勘付きながらも見て見ぬふり。そのことが、りくの心に言い知れぬ空虚感をもたらしているのだ。

 そんなりくの特技が、「涙を流す」ということ。自分の涙を自在にコントロールでき、「泣いた方がいい」と思われる場面で、ほろりほろりと涙を流せるのだ。ただし、その涙には何の感情もこもっていない。りくは“悲しい”という感情が理解できないため、彼女が涙を流すという行為は何の意味も持たないのだ。けれど、その姿を目にした周囲の人間は、りくを心配し気にかけてくれる。彼女は自分の涙が「周囲を動かすこと」を知ったうえで、自由自在に泣いてみせる。

 まるで感情を失ったロボットのようなりく。そんな彼女を誰よりも疎ましく思うのが、実の母親だ。隠れて浮気をしている旦那と、何を考えているかわからない娘。そんな二人に囲まれた母親が、爆発してしまうのも仕方がないかもしれない。けれど、彼女がりくに下した決断は、あまりにも残酷。まだ14歳のりくに対して、「しばらく関西にいる親戚のもとで暮らしなさい」と宣告するのだ。それも、自分の時間が欲しいから、という理由で。思春期まっただ中の子どもが、親に見放されてしまったらどうなってしまうだろう。そのときのりくの心中といったら…。

 そうして始まったりくの新生活。関西弁が嫌い、関西人特有の笑いが嫌い、ズケズケと踏み込んでくるような人間性が嫌い…。これまでの生活と真逆の日々に、彼女は嫌悪感を露わにする。それでも、そんなりくのことなどお構いなしに距離をつめてくる関西組一同。なかでも、末っ子の時男はりくに心を許し、実の姉のように懐く。これまで避けてきた「人の温もり」に戸惑いを隠せないりく。次第に彼女は、無感情のままに涙を流すことができなくなっていく。

 物語が大きく動き出すのは、終盤、時男が手術のために入院をするところから。大手術を経て、容態が安定した時男は、病院からりくに電話をかける。「はよ、お姉ちゃんに会いたい!」。時男の何気ない発言に、りくの心はかき乱される。あんなに冷たくしたのに、それでもどうして慕うの…? そして、ラストシーン。時男の無垢な思いを知ったりくに、ある変化が訪れるのだが、それはぜひ実際に読んで確かめてみてほしい!

 本作を読んでぼくは、恥ずかしながらも号泣してしまった。それは、りくが可哀想だからでも不憫だからでもない。一筋の希望を見せてくれたからだ。こんなどうしようもない世の中でも、まだまだ捨てたもんじゃない。痛みを伴いながらも成長していくりくは、そんな大切なことをぼくに教えてくれたのだ。「マンガで泣く」という体験をしたことがない人は、ぜひ本作を読んみてほしい。おそらく、初めての読書体験になるはずだから。

文=前田レゴ