純喫茶はいかが? カフェの建ち並ぶ現代に全国各地を巡り歩いた“純喫茶”本に癒やされる

暮らし

2015/4/17

 チェーン店のカフェや、コンビニのレジ脇でも淹れたてのコーヒーが飲める時代。日常のちょっとした息抜きに利用する人たちも、きっと多いことだろう。家庭用のコーヒーメーカーやエスプレッソマシンも安価になってきた昨今だが、コーヒーを飲む、そのちょっとした時間を味わうために喫茶店へ目を向けてみるのはいかがだろうか。

 カフェとして親しまれるお店が建ち並ぶ現代、喫茶店と呼べる場所は肌で感じるかぎりけっして多くはない。その中でも、純粋にコーヒーの味や香りとお店の雰囲気、ゆったりとした時間に包まれる「純喫茶」は希少な存在かもしれない。しかし、純喫茶という空間から「現代を描き、未来を見つめていきたい」と唱えるのは、書籍『47都道府県の純喫茶 愛すべき110軒の記録と記憶』(山之内遼/実業之日本社)である。

 著者は都内在住の会社員である山ノ内遼さん。1984年生まれとまだ若い。見知らぬ土地やお店の情報を、どうしてもネットに頼りがちな時代。しかし、「生まれ育った土地を離れて、何の事前情報もないままに初めて訪れた土地で、偶然素晴らしい純喫茶に出会う」と振り返る中で、日本各地の純喫茶を巡り歩く一人である。

 昭和の匂いもかすかに漂う純喫茶という言葉だが、諸説あるものの、同書ではその定義を「“純粋な”喫茶店」と記している。大正から昭和にかけて広まった喫茶店。時の流れと共に、現代のスナックやクラブにあたるアルコールを提供する“特殊喫茶”や、歌やダンスを楽しむ社交場としてのお店も登場した。そのため他の目的を持ち合わせない場所がいつしか純喫茶と呼ばれ、現代では、カフェの持つ「開放的で親しみやすい」イメージとの違いもめだつようになった。

 時代の変化を辿ると改めて分かるのは、現代で純喫茶と呼ばれるお店には、必然的に積み重ねられた歴史があるということだ。

 例えば、映画『ALWAYS 三丁目の夕日’64』のロケが行われたという茨城県の「純喫茶 マツ」は、1952年に開業してから現在まで、内装も変わらず営業を続けているという。ご夫婦が切り盛りするお店は、ご主人の明治生まれである祖父が始めた木造のお店で、店名は土地の持ち主の女性が由来だという。お腹が空いたお客さんに奥さんがたまたま出した「混ぜご飯」が評判を集め、今ではお店で人気のランチメニューとなった。映画で使われたパフェも当初は撮影スタッフのものを使う予定だったが、ご主人の試作したものが好評でそのまま本番に使われるエピソードもあったという。

 また、京都にある「静香」は1937年開業と戦前から営業を続けているお店。観光地として名高い祇園から少し離れた場所だが、今でも老舗の純喫茶が点在しているという。「父は頑固やったさかい、独学で自分の思う通りにお店をやってきたんよ」と振り返る店主は、父の思い出を回想する。「若い時は男前でな、家にいさせるためにまわりのもんが喫茶店をやらしたんや。でもな、一つのことを続けてきた父をほんま尊敬してんねや」。気づけば80年近くの歴史を重ねてきたお店。「家と百貨店しか行かんねや。でも街の歴史に比べたらまだまだや」と店主は語っていたそうだ。

 純喫茶の魅力を「お店自体のつくりからお客さんとの接し方、雰囲気など一つとしておなじお店がないこと」だと語る著者。くたびれた座椅子やテーブル、古めかしいサイフォンや食器、時にはタバコの煙が漂う中で黄ばんだメニューもまた“味”である。誰でも受け入れてくれるカフェにはカフェならではのよさもあるが、重厚にみえる純喫茶の扉をたまには、喧騒にまみれた現代のふとした瞬間に開けてみるのもまた一興である。

※文中の店舗情報は2013年11月11日 初版第1刷発行当時のものです。

文=カネコシュウヘイ