この本は…スタンド攻撃だッ!! 荒木飛呂彦が明かす王道漫画のための「黄金の道」とはッ!!

マンガ

公開日:2015/4/18

 スタンドとはッ!! 「目に見える形で表現された超能力」である! ならば、漫画家・荒木飛呂彦は、真の「スタンド使い」だ。スタンド名は『荒木飛呂彦の漫画術』(集英社)! 漫画家生活35年の荒木氏が、本気で漫画家になりたい人のために「王道漫画を描くため」の秘伝「黄金の道」を明かした1冊だ。

 なぜこの「本」が荒木氏のスタンドなのか? 本書の実用性の高さとともに説明しよう!

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王道漫画の「黄金の道」とは何か!?

 漫画の描き方やハウツー本は人の数だけあり、方法論は異なる。だが、「漫画には時々すべての物事がしっくりいくこと」がある。ストーリーもキャラクターもデザインもセリフもすべてが無駄なく「ハマッた」まろやかな状態、宇宙の法則のような完璧さを感じることがある。その状態へと続く道を荒木氏は「黄金の道」と呼ぶ。それは個人の方法論を超越した、漫画の本質、王道である。

 漫画には「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」という、「基本四大要素」がある。それらは互いに深く影響し合っており、「絵という最強のツール」で統括され、「セリフという言葉」で補われている。ゆえに「漫画とは総合芸術である」と荒木氏は言う。

 では、王道漫画を描くための「黄金の道」を見出すには、どのようなノウハウがあるのか? 本書から具体例を紹介しよう!

黄金のキャラクター

 漫画の主人公を考えようとすると「絵」から入りがちだが、荒木氏は最初に「主人公がどういう目的をもってストーリーの中に存在するのか」…「動機」を考える。愛する人を守るため、仕事、愛国心、好奇心、欲望…動機は「人間の基本的な欲求」で構わない。ポイントは読者が共感や興味を持ち、先を読みたくなるような「いい動機」であること! その上で、主人公は「孤独」で、行動に「勇気」が伴うこと、それこそが「王道」だと荒木氏は言う。

 動機や目的が決まったら、「身上調査書」を作成する。名前、年齢、性別、身長、体重、生年月日や血液型といった基本情報から「ペットの種類・接し方」「尊敬する人」など、60項目にも及ぶという(ネットで項目は検索可能なので参考にしよう)。ディテールを考察することで人物像が明確になり、劇中での行動に一貫性が出てくる。「こいつはこれが好きだから、こういうことするよね」とキャラが自分で動き始めるのだ。そう、「黄金のキャラクター」は「いい動機」と「身上調査書」から生まれる!

黄金のストーリーの2大鉄則!!

 「起承転結」と「主人公は常にプラス」がストーリーの2大鉄則だ。「起承転結」は割愛するが、「常プラス」とは、文字通り、ストーリー展開、敵の強さ、主人公の能力の成長、すべてが「常にプラス」に作用しなければならない、という意味である。「主人公がマイナスになるところなど誰も見たくはない」のは自明の理であり、連載漫画においては「負けた状態で翌週へ続くとアンケート結果も良くない」という。なるほど、少年ジャンプの第一線で漫画を描き続ける荒木氏ならではの、実に興味深い、重要な鉄則だ。

 一方で、陥りがちなのが「主人公が壁にぶつかるパターン」。「ヒーローが壁にぶつかり逃げ出し、悩んだ挙句復活して戦う」というのは、一見プラスに見えるが、実際には「ゼロからマイナスに落ちて、またゼロに戻っただけ」の「プラスマイナスゼロの罠」だ。ストーリー作りの際には、注意しよう!

 駆け足で紹介したが、これらは「黄金の漫画術」の欠片に過ぎない。本書では『武装ポーカー』『ジョジョリオン』『岸辺露伴は動かない』といった作品を具体例に、さらに深い「黄金の道」への到達方法が示されている。一文字さえ読み飛ばせないほど、実践的で濃密だ。そして、通読後に本書を分析してみると「ハウツー本」である本書までもが「黄金の道」の上に書かれたものであることがわかるはずだ。漫画家を本気で目指す人、物語を作りたい人は、ぜひ本書を熟読していただきたい。本書を読み終えた時、あなたの中で、「王道漫画を描く力」が目覚めているに違いない。

 だから再び言おう。「王道漫画を描かせるための力」が「手に取って読める書籍」と具現化した本書『荒木飛呂彦の漫画術』は、まぎれもなく、荒木飛呂彦氏の黄金のスタンド能力なのだと!

 そして、このスタンドに触れた人の中から、必ず王道漫画家が生まれる。未来への希望の継承、漫画賛歌、「黄金の道」は続く。to be continued…

文=水陶マコト