【作ってみた】大正時代のシチューやカレーはどんな味? 100年分の「くらしの家庭面」を凝縮した珠玉のメニュー

食・料理

公開日:2015/4/22

 2014年、読売新聞の「くらしの家庭面」が100周年を迎えた。戦争による中断はあったが、皆に親しまれているこのコーナーは、現在も続いている。このコーナーでは「食」を大切にしており、これを振り返ることでこの一世紀の食文化を感じることができるそうだ。過去100年間に掲載されたレシピ数はなんと2万件以上。そんな中から、次世代に残したいとっておきの100のレシピを、野崎洋光さんら4人の食の専門家がセレクトした『読売新聞家庭面の100年レシピ』(読売新聞生活部/文藝春秋)。今では定番となっている料理も、当時は新しく画期的なレシピだったのだろう。中には、名前や味付けが今と違うものもあり、当時の食生活が伺える。当時の人たちは、一体どんな味を好んで食べていたのだろうか。非常に気になる。そこで、実際に作って食べてみた。

スープ殻のシチュー煮(大正4年6月25日掲載/P.16~17)

 シチューと言えば、クリームシチューやビーフシチューを思い浮かべる。しかし、本書のシチューはどちらでもない。ホワイトソースもデミグラスソースも使っていない。バターで炒めた玉ねぎと鶏肉、にんじん、じゃがいも、いんげんを煮込み、塩コショウで味付けし、水で溶いた小麦粉でとろみをつけただけ。食べてみると不思議とシチューっぽく美味しかったが、今のシチューとはだいぶ印象が違う。

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豚のカレー(大正4年5月29日掲載/P.20~21)

 みじん切りの玉ねぎ、細かく切った豚肉をカレー粉と塩コショウで炒め、だし汁で煮込み、すりおろしたじゃがいもでとろみをつけるだけという、びっくりするくらいシンプルな作り方。ここまで読んでお気づきだろうか? このカレー、なんとにんじんが入っていない。当時はまだ試行錯誤を繰り返していたのだろうか。そして、付け合わせが福神漬けでなく紅ショウガなのも珍しい。実際に食べてみると、だしが効いた優しい味わい。辛党には物足りないかもしれないが、これはこれで美味しかった。カレーに醤油という文化に納得する味。

キンプラ(大正期 掲載日詳細不明/P.48)

 P.48の「トリ肉 味つけ揚げ」の欄に、「大正期の紙面には、卵と小麦粉の衣で揚げた鶏の天ぷらが『キンプラ』の名称で繰り返し登場」とあったので、今回はそっちを作ってみた。鶏の天ぷらといえば、大分の名物“とり天”を彷彿とさせるが、当時は全国的なものだったのだろうか。から揚げとはまた違う、サクサクした衣が相性抜群だった。今回はにんにく、生姜、醤油、酒で下味をつけたが、下味を薄めにしてレモンや塩で食べてもおいしそう。

フルーツ白玉(昭和40年10月12日掲載/P.66)

 最後は、懐かしさ漂うフルーツ白玉。フルーツ缶は、明治時代から一般に出回っていたとのこと。ペパーミント(ハッカ洋酒)を練りこんで爽やかに仕上げたフルーツ白玉は、シンプルながら思わず顔が綻ぶくらい素朴で美味しい。甘いので、甘さが苦手な人は砂糖の量を減らしてもいいそうだ。白玉は、丸めて少し潰して茹でると火の通りが早い。

 本書を通して、今でも食べられてはいるが、作り方や味付け、名称が違うものが多く見られた。また、和洋中様々なレシピが掲載されていながらコンソメが一度も登場しないことに衝撃を受けた。「クノールコンソメ」の発売が昭和40年、「味の素コンソメ」の発売が昭和42年ということで、それまでは一般的ではなかったのだろうか。このように、懐かしかったり、逆に新しかったりと時代を感じるレシピが満載のこの本。たまには、こういった素朴な味を楽しむのもいいかもしれない。

文=月乃雫