えぐられるような読後感 ―話題のまんしゅうきつこが描く、30歳処女・熊谷実家暮らし「ハルモヤさん」

マンガ

更新日:2015/4/23

ハルモヤさん(1)』(まんしゅうきつこ/新潮社)

 何も予定の入っていない休日、ただただ何もせず、1日布団の中で過ごしてしまうことがある。そういうときは決まって、誰に怒られるわけでもないのに強烈な自己嫌悪と焦燥感が、“贅沢に休日を使った喜び”を上回る。エッセイ漫画『アル中ワンダーランド』(扶桑社)が話題のまんしゅうきつこ氏が、『アル中~~』と同時期に刊行した『ハルモヤさん(1)』(新潮社)の読後感がそれだった。休日に寝続けたときに感じるあの感覚が、1ページ1ページから粘っこく絡みついてくる……。

アル中ワンダーランド』(まんしゅうきつこ/扶桑社)

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 30歳。処女。高崎線沿線の熊谷の実家で暮らし、近所の図書館で働く。月収は11万。これが主人公ハルモヤさんのプロフィールである。性別が女であること以外は、自分と特に境遇が似ているわけでもない。なのに、えぐられるのだ。

 ハルモヤさんは、高崎線に乗り続ければ東京へ行けることに希望を持ちながら、強烈なルサンチマンを抱いている。久しく高崎線に乗っていない、と言う同僚に対し、「高崎線に乗っていないということは 高崎線に乗るような出来事が日常に一切存在していないとアピールしているようなもんですよ」と注意するハルモヤさん。高校のときに東京から高崎線に乗って通学してきた同級生のことを「垢抜けて見えて憧れで 同時に 都落ちしてきた気の毒な人たち という位置づけでもあった」と語るハルモヤさん。そんな都心への引け目を同僚に告白するも、同僚からの返答は「へー よくわからないけど ハルモヤさんのお友達は東京に住んでいるのね」。ルサンチマンを熱く語って、それがまったく通じなかったときほど、やるせないものはない。通じなかった悲しみに加え、卑屈で器の小さい己が恥ずかしくなるものだ。

 日々を無駄に消費してしまう怠惰なところ、華やかなものに対する卑屈な気持ち、人の足を引っ張りたくなる衝動、『ハルモヤさん』の中には、身に覚えのある何かが詰まっている。それは、休日を無為に過ごしたときに味わう何かと、似てる。

取材・文=朝井麻由美