ヤンデレ界に激震走る!? 新たなダークヒロイン『怪談彼女』でぞくぞくするような純愛を味わおう

マンガ

公開日:2015/4/25

 あなたがいないと生きていけない――こんなセリフを実際に言われたことがある人はどのくらいいるだろうか。行き過ぎた執着を持つ愛はむしろホラーである。そうした、相手を想うあまりに歪んだ病的な愛情を持つに至ったヒロインは、いわゆる“ヤンデレ”と呼ばれる。安珍清姫伝説の清姫から、『School Days』の桂言葉まで、古くから日本には実に数多くのヤンデレヒロインが存在している。日本人がヤンデレを愛でるその心理は、「怖いもの見たさ」という点で、怪談を聞きたがる心理と似ているのかもしれない。

 そんなヤンデレ界に、確実に新たな歴史を刻むであろう作品が「最悪のヤンデレヒロインがやってくる!!」という謳い文句の『怪談彼女~てけてけ~』(永遠月心悟:著、ミウラタダヒロ:イラスト/集英社)だ。同作品は、ジャンプ小説新人賞のフリー部門で金賞を受賞。1巻が発売されると、話題が話題をよんで重版を重ね、昨年の6月からこれまでで、すでに3巻が刊行された大注目の作品だ。

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 主人公、中学生の斎藤槍牙は幼なじみの黒川夢乃のストーカーぶりにうんざりしていた。ゴスロリのドレスに身を包んだ夢乃は、授業中だろうと槍牙の膝の上に座って愛の言葉をささやき続ける。本や音楽などの娯楽も、槍牙の目に入るもの、耳に聞こえるものすべてを管理しようとする。槍牙との仲を邪魔する者は誰であろうと排除する。典型的(?)なヤンデレストーカーである。そんな槍牙と夢乃の前に、ある日突然、異形の化け物“てけてけ”が現れる。

 “てけてけ”とは、都市伝説として語られる怪談の一種である。話の筋書きや細かい設定などにはさまざまなバリエーションがあるためここでは割愛するが、共通して登場する怪物“てけてけ”の姿はほぼどれも同じだろう。“てけてけ”は下半身がなく、腰から上だけの姿で現れる。上半身に残った肘や腕で這いまわり、そのときに「てけてけ…」という音を出して追いかけてくるというものだ。

 “てけてけ”に襲われた槍牙は、それをきっかけに、自分自身を取り巻く世界が一変するほどの驚くべき真実を知る。そして同時に、夢乃が槍牙のそばを離れられない理由も明らかとなる。2人はそれぞれの宿命を背負い、この世に放たれてしまった“てけてけ”を倒すため、夜の学校へと向かう。タイムリミットは午前5時――。

 この作品最大の魅力はやはりヒロイン夢乃のエキセントリックな存在感といっていいだろう。中学1年生とは思えないようなセクシーさを漂わせる美少女というだけでなく、戦闘もべらぼうに強い。“てけてけ”の怪談には多くのバリエーションがあることは前述したが、物語の中ではそれらがすべて別の“てけてけ”として存在している。「でかいクモ」のような“てけてけ”がぞろぞろと街中にあふれ、それを夢乃がバッサバッサとなぎ倒していくさまは、恐ろしさと爽快さがないまぜになったゾンビゲームのような快感がある。

 しかしそんな夢乃の行動の根幹にあるのは、あくまで好きな人を一途に想う恋心。ゴスロリドレスや武器である鋼鉄の日傘とそれを振り回す怪力、腕の刺青など、彼女を装飾するさまざまなものを取り払ったあとに残るのは、恋するひとりの女の子である。恋してやまない槍牙の存在こそが、夢乃の存在理由なのだ。

 夢乃のそうした本質は、この作品全体にも通じるものだ。「ヤンデレ」「怪談」「バトル」など、さまざまな要素が散りばめられている作品だが、根底にあるのは「純愛」。まるでビターチョコレートのように、ほのかに苦く切ない読後感は、恋愛小説そのものといっていいだろう。ヤンデレ界のニューヒロイン、黒川夢乃の背筋がぞくぞくするような恋の行方を、ぜひこれからも追っていきたい。

文=本宮丈子