特集「キャラクター小説」

アンティーク着物と古典をめぐるライトミステリー 『下鴨アンティーク』著者・白川紺子さんインタビュー

   

 今年1月に集英社から創刊されたライト文芸レーベル「集英社オレンジ文庫」。その第1回ラインナップに登場した『下鴨アンティーク』は、アンティーク着物をめぐるファンタジックなミステリーだ。
 著者の白川紺子さんに本作の着想や魅力的なキャラクターたちがどのように生まれたのか、その背景を聞いた。

着物と京都に対する愛着が生んだ物語

舞台は京都の下鴨。高校生ながらにアンティーク着物を愛する鹿乃は、ぐうたらながらもヤリ手の古美術商の兄・良鷹、近所の大学で准教授をしている下宿人の慧と3人で暮らしている。ある日、彼女は亡き祖母から「開けてはいけない」と言われていた土蔵を開けてしまう。すると、蔵の中に保管されていた着物の柄が変わったり、声を出して泣き出したり、奇妙なことが次々と起きて――。『下鴨アンティーク』は、そんな不思議な謎を『不思議の国のアリス』や『源氏物語』などの古典をヒントに解き明かしていくという、ちょっと変わったミステリー作品。このユニークな物語が生まれたきっかけはどんなことだったのだろう。

「もともとアンティーク着物が好きだったのがきっかけです。昔の着物はユニークな柄が多くて、どういう気持ちで誂えたんだろう、と想像をかきたてられますし、何か不思議なことが起こりそうな佇まいがあります。ファンタジーとも相性がいいアイテムだと思ったのですが、そこに古典という堅い題材と、さらに『不思議の国のアリス』など西洋のものを組み合わせたら面白いかも、という思いつきから生まれました。京都を舞台にしたのは、京都に住みたくて京都の大学を選んだくらい京都好きだったのと、話の世界観とちょうど合うと思ったので。実は作中で慧の勤めている大学が私の母校、同志社大学です。大学やその周辺(とくに鴨川デルタ)が出てくる辺りは非常に懐かしい思いで書いていました。青春がつまった場所なので、やはり特別なものがあります」

作中に登場するアンティーク着物は柄や生地のディテールまで丁寧に描かれ、古典作品や伝統芸能の能といったモチーフのひとつひとつの描写にも白川さんの“愛”が感じられる。若い世代の読者にはあまり馴染みのない世界かも知れないが、それぞれの美しさが伝わる文章とそのディテールをストーリーに絡ませる巧みな展開に思わず物語に引き込まれてしまう。

「いずれも私が京都の大学生だったころに学んだもの、はまったものなのですが、昔と今が繋がっている、という感じに惹かれるのかな、と思います。当時一年ほど、ほぼ毎日着物で過ごした時期があるのですが、着物のコーディネートは本当に楽しかったです。すべて私のなかでは京都に住んでいたころに繋がるものなので、自然と題材として浮かんだのかもしれません。ストーリーを作る前にまずは題材に使う古典選びから始め、それからどういう着物にするか、話のテーマは何にするか、といったことを考えて物語を作っていきました。ただ、古典の内容について知らない人にどうわかりやすく説明するかという点には苦慮して、何度も書き直しました」

「少女小説の王道ヒーローが大好きなんです」

 着物が大好きな女子高生とクールな下宿人の准教授、怠け者ながら古美術商としては目利きで実は妹思いな兄。少女と2人のナイトが織りなす、思わず胸が高鳴る関係性も読みどころ。こうした魅力的なキャラクターの造形については、どんなことを意識したのだろう。

「現代が舞台のお話なんですが、ファンタジーな展開に合うよう、あまり現実感のない、浮世離れした設定・キャラにしようと思いました。旧華族とか、有閑貴族みたいな兄とか、若い准教授だとか。慧も良鷹もクールでひねくれたタイプ(そしてハイスペックなイケメン)ですが、こういう少女小説の王道ヒーローが大好きなんです。脇役のキャラクターについても、人にはそれぞれ雰囲気があるので、そのキャラクターの雰囲気が感じられるようなしぐさや言葉遣いになるよう気をつけています。あとは、その人の価値観とか、何に笑って何に対して怒るのか、といったことをよく考えますね」

 本作には「アリスと紫式部」「牡丹と薔薇のソネット」「星月夜」の3編が収録されている。どれも着物が秘めた過去の“ある思い”が引き起こす不思議な現象を鹿乃たちが読み解き、それを浄化することで解決していく物語になっている。

「アンティーク着物が題材ですので、物語の視線はつねに過去を向いています。過去の現実は変えられない、ということを前提にして、でも変えられるものもあるんじゃないか、といったことを考えていました。書き進める上で苦労したところは、古典と西洋の題材の組み合わせ、それからその辺をどう物語として展開するか、でしょうか……でも、書いていて面白かったところも同じです。あと、鹿乃の祖父母の新婚当時のエピソードは書いていて非常に楽しかったですね」

 白川さん自身が「非常に楽しかった」という祖父母の新婚当時のエピソードは第3話「星月夜」で、祖母・芙二子の日記の形で語られている。勝ち気な乙女の芙二子と飄々としているのに実は“曲者”なお祖父ちゃんのなれそめは、主役たちを食ってしまうほどロマンティックな萌えエピソードだ。

続編は6月に刊行予定

 オレンジ文庫は「ライト文芸」レーベルとして、「キャラクターの魅力」を打ち出している。白川さん自身はこれまでにどんな小説のキャラクターに惹かれてきたのだろう。

 「私自身が、登場人物が魅力的で読んでいた作品というと、岡本綺堂の『半七捕物帳』やアガサ・クリスティのポアロシリーズですね。半七親分はとにかくかっこよくて、ポアロはオジサンなのにかわいい(笑)。大好きです。北森鴻さんの蓮丈那智シリーズや、仁木悦子さんの仁木兄妹のお話も主人公たちが好きで読んでました。あとは、ジェイン・オースティンの『高慢と偏見』とか(リジーよりもジェインが好きでした)、イーヴリン・ウォーの『ブライヅヘッドふたたび』、これはセバスチャンが好きで好きで……。あげるときりがないですが、こうしてみると、話も面白いけれどとくにキャラクターが好きで読んでいた作品というのは意外と多いのだなと思いました。
 ただ、私自身は「ライト文芸」ジャンルについて、これといって意識したことはないように思います。担当さんからの注文もとくになかったので、自由に書かせていただきました。ジャンルのことを考えることはないのでよくわかりませんが……こうして新たにくくりなおすことで読者のかたに気軽に手にとっていただける分野になっているといいなと思います」

 鹿乃と慧の恋愛未満な微妙な関係、妹をぶっきらぼうながら優しく見守る兄。3人の関係が今後どうなってくのかは、否が応でも気になるところ。多くの読者が待ち望んでいる続編は現在準備中とのことだ。

「2巻が6月に出る予定です。今後は、鹿乃と慧の関係の変化や、過去の遺物である蔵の着物と現代を生きる登場人物たちとの関わりをもっと描いていけたらと思います」


白川紺子
しらかわ・こうこ●三重県生まれ。雑誌Cobalt短編小説新人賞に入選の後、2012年度ロマン大賞を受賞した『嘘つきなレディ ~五月祭の求婚~』(受賞時から改稿・改題)で2013年にコバルト文庫にてデビュー。そのほかの著作に『リリー骨董店の白雪姫』『朱華姫の御召人』シリーズなど。

取材・文=橋富政彦



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