40代からじわじわ進行する認知症 ―予防と改善には糖質制限食が有効

健康

公開日:2015/5/4

 働き盛りの40~50代。この頃から「自分の親に介護が必要になるのではないか」と気になり始める人は増える。また、そうした人たちは、「介護が必要な高齢者の約半数は認知症であり、介護施設にいる高齢者の約80%が認知症である」という統計(「世界アルツハイマー病報告書2014年版」)からみても、親の認知症発症を心配している人が多いといえるだろう。その一方で、自分のこととなると、「まだ若いし、元気に働けているし、自分は大丈夫」と答えるはず。しかし『認知症は脳のメタボだった!』(白澤卓二/宝島社)によると、ショッキングなことに、認知症は40代からじわじわと進行しているというのだ。

認知症のほとんどは、アルツハイマー型認知症と血管性認知症

 そもそも認知症と呼ばれる症状のほとんどは、アルツハイマー型認知症と血管性認知症が占めるという。アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞に異常タンパクが発生し、毒性のある物質がつくられて神経細胞に障害が起こり、脳が徐々に萎縮していくと考えられるもの。しかし記憶障害が起こっても、患者自身が“忘れたことを忘れてしまっている”ために治療に消極的だったり、周りとトラブルを起こしてしまったりするのだとか。そしてさらに進行すると、歩くことも話すこともできなくなり、寝たきりに陥るという。

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 血管性認知症は、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血などの脳卒中により、脳の血管に障害が起こることで発症する。認知機能は脳の神経細胞がどの程度壊死したかによって異なり、言語障害や記憶障害のほか、体の麻痺、視覚障害などの後遺症を伴うことも多いそうだ。

認知症は「脳のメタボ」であり「3型糖尿病」!?

 いわゆる「メタボ状態」とは、血液が高血糖、高血圧、高脂質の合併症状を起こした状態を指すという。このうち特に、高血糖が続くことで血糖値を一定に保つインスリンの分泌が悪くなったりする状態が糖尿病だ。そして血管性認知症の原因となる脳卒中は、体がメタボ状態になった結果、動脈硬化が進行して発症するのだとか。

 また最新の研究によると、アルツハイマー型認知症も生活習慣が関係して発症すること、血糖値の異常は血管性認知症とアルツハイマー型認知症の両方のリスクを高めること、高血圧が血管性認知症のリスクを10倍に高めることなどから、同著では認知症を「脳のメタボ」と位置付けている。

 さらに、糖尿病には遺伝的に発症する「1型」と、主に食べ過ぎや運動不足といった不摂生により発症する「2型」があるが、糖尿病がアルツハイマー型認知症の発症リスクを50%高め、重度のアルツハイマー患者の脳内のインスリン受容体が健康の人より80%も低いことや、糖尿病の治療薬によってアルツハイマー型認知症が改善したことなどから、アメリカではアルツハイマー型認知症は「3型糖尿病」であると提唱する研究者も複数いるという。

脳トレよりも、40~50代の食生活が大事!

 これまで認知症の予防と言えば「脳トレ」が効果的だと言われてきたが、認知症の発症する要因が血糖値に大きく関係すると思われることから、同著では、特に40~50代(いわゆる中年)からの生活習慣、特に食生活の見直しを推奨している。そこで最も注目しているのが、いつもの食事から主食を減らす糖質制限食と、ココナッツオイル(またはココナッツミルク)の摂取だ。

 ご飯、パン、麺類といった主食に多く含まれる糖質には、栄養素の中で唯一、血糖値を上げる作用がある(逆に、タンパク質や油は血糖値を上げない)。血糖値が高いうちは血液中にブドウ糖がたくさんあるので、体脂肪がエネルギーとして使われることはないそう。ちなみに「脳はブドウ糖だけをエネルギー源として使っているので、糖質を摂らなければ人間は生きていけない」と思い込み、糖質を制限することを躊躇する人がいるが、実際は血液中のブドウ糖を使い切ると肝臓内に蓄えられた中性脂肪からケトン体という物質が合成され、脳をはじめ体中のエネルギーとして使われるというから安心してほしい。そしてココナッツオイルに豊富に含まれる中鎖脂肪酸もまた、体内で分解されるとケトン体を合成するという。また、認知症が改善した患者の脳内ではケトン体濃度が高いという結果も出ており、ココナッツオイルを毎日摂取することでアルツハイマー型認知症が劇的に改善した例もあるそうなのだ。

 もちろん、適度な運動により筋肉を付けたり、「脳トレ」をやるに越したことはないし、生活習慣に気を付けていても認知症が発症してしまう例もあるだろう。しかし脳の老化は40代から数十年かけてゆっくりと進行することは動かしがたい事実であり、認知症が進行してしまってから元の状態に戻すことは困難である。だとすれば、発症に抗う術としての糖質制限食や、中鎖脂肪酸の摂取は、今日からでも取り入れたいものである。

文=増田美栄子