アイドルとファンの間に置かれるべき絶対的“憧れ”とは? 橋口いくよインタビュー【後編】

芸能

2015/5/3

 『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 49-』(以下『49』)、『少年ハリウッド -HOLLY STAGE FOR 50-』(以下『50』)と2期にわたるアニメが4月で終了したアイドルアニメ『少年ハリウッド』。しかし劇中で躍動したアイドル、少年ハリウッドはその後も生き続けており、彼らより一足先に生まれていたZEN THE HOLLYWOOD(以下、ぜんハリ)は、キングレコード・スターチャイルドからメジャーデビューも果たし、オリコンにもランクインするなど活躍中だ。

 編集部では、この“アニメ×小説×ぜんハリ”プロジェクトのキーマンである作家の橋口いくよ氏に話を伺った。もちろん、前回に引き続き今回も、少ハリのグレーゾーン(つまり制作過程)に踏み込む「ねずみカラー」なインタビューとなる。

前編はこちら

驚きのライブ回をより楽しんで頂くために

 アニメ『少ハリ』の最終回は、全編、少年ハリウッドのライブを楽しめるという、贅沢かつそれまで彼らの成長を見届けてきたファンにとっては感慨深いものだった。このエピソードをファンにより楽しんでもらうため、橋口氏はさまざまな仕掛けを施している。

――アニメは全26話ありますが、特に好きなエピソードはありますか?

橋口:どの話も好きですが第6話「雨の日の居場所」がとくに好きですね。どうでもよさそうな話の先に、とんでもない真実、展開があるというのが人生だったりするので、そういう部分を通して彼らが必然的に一歩ずつ歩み寄っていくことになった姿が印象的でした。テンポが思っていたニュアンスとピタッと合った感じも心地よかったです。

――マッキーの話ですよね。マッキーは最終話に少しだけ映る履歴書からハーフであることが明かされました。

橋口:それも含めて、ぎりぎりまで、もしくは、いまだ関係者に言っていない設定は他にもたくさんあります。なぜかと言うと、たとえば事前にマッキーがハーフだと伝えていると、アニメーターさんがおもいっきり外国人風の顔立ちにしなければならないと思うかもしれない。私のお話した情報で振り回してしまうよりは、描かれる方の思う「マッキー」を尊重したいんです。ハーフでもそこまで外国人みたいじゃない顔立ちの人っているじゃないですか。マッキーはそのタイプですし。それ以前に、現実世界で付き合っている人達も、本当の素性を知らない人ばかりじゃないですか。それくらいリアルな感覚でいきたいなというのはありました。

――なるほど。それにしても驚きました。

橋口:ただ第26話は、少年ハリウッドにとって大事な日です。そこで「マッキーは甘木ショーン和馬という名前でハーフなんだ」という情報だけに意識がいってしまうと、そのことに気がとられて、せっかくのライブが楽しめないかもしれない。それはさけたかったので、放送の数日前にあえてTwitterで情報を出しました。

――その第26話はライブも圧巻でした。

橋口:全話観ていると、あの日のことは特別に感慨深いですよね。それ以上のことは何も言えなくなっちゃうくらい。第26話と言えば、5月10日(日)に中野サンプラザで行なわれる、少ハリ&ぜんハリ合同フェス「仲良くしないとすりつぶしてやる!」というイベントで、一部がアナザーバージョンになったものをご覧いただけるので私も楽しみです。彼らが活動する拠点であるハリウッド東京に行きたいとおっしゃる方が多いので、この日はみんなでワープして押し掛けて、彼らを驚かそうと思っています。

――放送が終わっての感想はいかがでしょう?

橋口:感謝しかないです。黒柳監督をはじめ、関係者みんなが命を削られたというのが放送を観ればわかるから。特に最終話は、作画の皆さん本当に寝ないで作業をされていたと思うんですよ。私にも何かできないかと悩んで、レッドブルを差し入れしようかぎりぎりまで悩みました。レッドブルって眠れなくなるから「もっとやれ」とプレッシャーをかけてしまうかもしれないと不安で(笑) とにかく、誰もが全力だった。少ハリファンの皆様も、各地域、遅い放送時間が多かった中、深夜まで起きて観てくださったり「少ハリっておもしろいよ!」ってまわりに宣伝してくださったり、たくさんのみなさんが毎日を、自分の命を削って、少ハリを生かしてくれたんだと思います。声優さんもそうです。声優の皆さんのこれまでのお仕事を考えたらとんでもなく無茶なことに、とことんつき合って彼らを生かしてくださった姿に頭が下がります。『ハロー世界』の詞を書いた時に「君が描くもの そのすべてが命さハロー!」と入れましたが、『50』まできて、ようやくその『49』のオープニングテーマにある言葉にみんなで辿りつけた気がしますね。

続く“アニメ×小説×ぜんハリ”プロジェクト

――4月末に発足するファンクラブについて伺います。結成に至ったいきさつを教えてください。

橋口:少ハリはアイドルですから、ファンクラブはあって然るべきでしょう。彼らを応援し続けたいというファンの気持ちも尊重して、設立は自然な流れでした。

――ファンクラブに入るとどんな特典がありますか?

橋口:普通のアイドルのファンクラブと同じようなものです。イベントチケットの先行予約があったり、会員証が発行されたり、オリジナルグッズが購入できたり。あとは、『50』以降の彼らの日々が綴られる連載小説を読んで頂けたり、彼らがつけているハリウッド日誌が流出したり……そういうところは他のアイドルのファンクラブとちょっと違うかもしれませんね。だって、普通のアイドルの本当のプライベートは見られないじゃないですか。それが少ハリの場合は時空を超えると彼らの家での様子や、楽屋での姿などを沢山見ることができます。逆に言うと時空の向こう側(アニメの中)のファンは決してそれを見られないわけで、それはこのファンクラブの素敵な特徴です!

――ファンクラブ名がFuture Orangeですが、どういう意味がこめられているのでしょうか?

橋口:少年ハリウッドには初代がいます。その初代は、ファンのことをオレンジと呼んでいました。でも、新生少年ハリウッドは、シャチョウからファンのことをオレンジと呼んでいいと言われていないんです。まだそこに達していないらしいので、いつか呼べるように立派になってほしいという願いをこめて。そして、これから彼らがもっともっと大きくなっていった時に出会う、まだ見ぬファンのことも同じように大切にしたいという思いもこめられています。そのふたつの意味を込めてFuture Orangeとなりました。

――次に少年ハリウッド公式アイドルであるぜんハリこと『ZEN THE HOLLYWOOD』とは、どういう存在なのでしょうか?

橋口:彼らは、新生少ハリよりも少し前に誕生し、少ハリコンテンツの代表曲である『永遠 never ever』を含めた数々の楽曲を大切に大切に歌ってきていました。もちろんぜんハリの為に作られたオリジナル楽曲もありますし、元々は彼らが歌っていた楽曲を、少ハリメンバーが歌う姿も見られるなど、少ハリコンテンツ内では切っても切れない関係。ぜんハリは裏で色々とお手伝いもしてくれていて、「彼らが少ハリのダンスに命を吹き込んでいる」と言っても過言ではないくらいです。独立したアイドルとして活動の場を増やしている今でも、少ハリを裏でちゃんと支えてくれている。彼らがいなければ少ハリは生きられなかった。少ハリがいなければ彼らが生まれなかった。それは紛れもない事実。シャチョウのお達しで、少ハリとぜんハリは公式的に「ライバル」という関係になりましたが、それは、時空を超えて「お互いを認める」という意味でもあります。ぜんハリに関しては、私がこれ以上、ここで言葉を連ねるよりも、どうかライブに足を運んでいただきたい! と思っています。行けばわかりますから! 生で観ればわかりますから! 今みないと後で絶対損しますから! 後は、総合演出の桜エイジさんに、ぜひ詳しいことをきいてください! ぜんハリの公式サイトもぜひみてください!

――さて、その桜エイジさん。ぜんハリの総合演出であり、また『少ハリ』内のドラマ「渡り鳥コップ」のスタッフクレジットにも名前があります。どんな方なんでしょうか?

橋口:桜エイジさんついては、徹底して箝口令が敷かれているので、これだけはこたえられません。ごめんなさい!

アイドルとファンの間に置かれるべき絶対的 “憧れ”

――『少ハリ』でアイドルアニメを手がけられましたが、元々アイドルはお好きなのでしょうか?

橋口:大好きです。子供の頃は、ずっとアイドルに憧れて、アイドルになりたかったですし。今は、ライブもなかなか行けないんですが、映像なんかはよく見ますし、気持ち的には色んなアイドルを追いかけています。子供の頃は、南野陽子さんが大好きで『スケバン刑事』シリーズもDVDを全部持っています。ナンノがいたから、生きられた時代があった。それくらい私にとってアイドルは私を支えてくれたものです。

――アイドルといえば、SKE48の松井玲奈さんやでんぱ組.incの成瀬瑛美さんが、たびたびtwitterで『少年ハリウッド』について、熱い思いを呟いていらっしゃいました。それについてはどう思われますか?

橋口:土下座して感謝したいです。AKB48グループもでんぱ組もみんな大好きですから。たくさんのアイドルからもらってきたエネルギーで生まれたものが、アイドルに届いて、間接的にではありますが、言葉をいただけた。こんなに嬉しいことはありません。何度泣いたことか。でも勘違いはしちゃいけない。これは少ハリ、つまり彼らへの言葉です。だから、頂いた力はすべて少ハリに注いでいます。アイドルエネルギーはアイドルの為に使う!

――男性アイドルでお好きな人はいますか?

橋口:それが、今までひとりもハマったことはないんですよ。私、昔から、恋愛にもそんなに興味がなくて、男子にもキャーっとなるタイプでもなくて。異性が嫌いってわけじゃないんですが、過度な憧れを抱くこともあんまりない。異性にはどちらかというとドキドキするより平和でいたい人間なんです。昔、アイドルへの憧れと恋愛は違ったものだと思っていたら、友達がアイドルに対して恋愛感情があることに驚いたんですね。頑張って一緒に楽しもうとそのテンションを真似してみたんだけど、ぶわっとくるものがさほどなくて。たぶん、私がおかしいんだと思います(笑) 理解はできるし、素敵なことだと思うんですが、私はアイドルにそれを求めることがない。 “憧れ” って、あの人を振り向かせたいという気持ちより「あんなふうになりたいなあ」という気持ちにたくさん宿ると思うんです。だから、私は女の子アイドルに感情移入しやすい。そんなこともあって、少ハリは、私がこれまで憧れたたくさんの女の子のアイドルがベースになっている部分もあります。

――それは意外ですね。

橋口:ただ、男の子という部分では、私の元々の考え方がわりと野郎なので、少ハリメンバーの気持ちを理解するのが難解ということはなかったです。

――「アイドルはね、追いかける側の時と場合によっては、神にだって生贄にだってなってしまうんです」というシャチョウの言葉が『少年ハリウッド』にはあり『原宿ガール』でも近いテーマを感じます。ただ、現実世界ではアイドルの周辺で不幸な出来事もあると聞きます。それに関してどう感じますか?

橋口:それは、アイドルが身近な大人の餌食になるということでしょうか? シャチョウが言ったのは、そういう意味ではないんですよ。ファンにとっての神であり生贄であるという意味です。大人の餌食になるそれは、言ってしまえば、逆に「アイドルだって人間だ」という部分になるのではないかと。ただ、もしもそういう現実があったとしても、本人がステージに立っている限り、我々はその姿を応援すればいいんです。それがファンのつとめ。アイドルが裏の辛さや、自らが起こしてしまったゴシップですら力に、笑顔にかえてきてくれれば、我々にとってそのアイドルにある悲しいことは「無かったこと」にできるんじゃないですかね。私はそれでいいと思っています。もちろん、裏じゃ泣いているかもしれないし、大変な思いをしているかもしれない。でも、歌っている時は笑っていてくれれば、私はそのアイドルを信じることができます。それは見ないようにするファンの都合の良さではなく、見せないようにするアイドルの気持ちにこたえる忠誠心。それこそがアイドルとファンをつなぎ、時としてちゃんと一線を引いてくれる “神聖さ” や “憧れ” の持つ力だと思います。クリーンって何もないってことじゃない。クリーンは努力して維持するもの。その努力がキラキラ光るんです。

――『49』で、初代少ハリのゴッドがシャチョウになっていますが、彼にはそれがあるということですか。

橋口:そうです。アイドルは神にだって生贄にだってなってしまうという言葉の意味を、自分の人生をもって理解し続けている人ですから。それに、ゴッドはアイドルにはなれたけどセンターにはなれなかった人。しかも、少ハリとしてもっと長く活動したかったけどそれは叶わなかった。彼は夢を叶えながら “憧れ” を残すことができたすごく希有な存在なんだと思います。そういうまっすぐなものを今でも持ち続けているからこそ、新生少ハリを、淀みない真っ白な気持ちで支えていられるんだと思います。

――なるほど。最後にそんなシャチョウや、少ハリのその後も気になるので、今後の予定を教えてください。

橋口:『51』が、まずは小説で展開されてゆく予定です。こうして彼らの未来を私が書かせてもらえるのも、彼らの未来を望むファンの皆様がいらっしゃるからです。「彼らが動いているところを観たい」という声も頂いていますが、簡単なことではないのは誰もがわかっていると思います。だからこそ、私はとにかくできることからやろうと。文字にはなりますが、彼らの姿をお届けし続けることが『少年ハリウッド』という火を絶やさないことに繋がるに違いない! ゴッド、そして少年ハリウッドが教えてくれた夢をみる尊さを、今こそ我々が信じなくてどうする! という熱い気持ちをもって、できることはすべてやりながら挑み続けたいです。そうやって、信じて頑張ろうと思えるのは、彼らをまた見たいというファンの方たちがいらっしゃるからにつきます。少年ハリウッドはとても幸せなアイドルです。彼らに、そしてファンの皆様に、私もこうして新たな夢を見させて頂いて、本当に、本当に感謝するばかりです。

――期待しています。ありがとうございました。

 1少年ハリウッドプロジェクトのファンとして、今回のインタビューで初めてお会いする橋口いくよ氏は想像していたよりも小柄でキュートで、笑顔が素敵という印象だった。しかしながら、少年ハリウッドプロジェクトに対して我々の想像以上に心血を注いでいることがインタビューが進むにつれどんどん明らかになり、アイドルを愛するがゆえに、アイドルの理想郷をこの世に現出させんとする無尽蔵のバイタリティーを垣間見て、ひたすら圧倒された。

 また「アイドルとファンをつなぎ、時としてちゃんと一線を引いてくれる “神聖さ” や “憧れ” の持つ力」という言葉を聞いた時、「ああ、私は正にその気持ちを大事にしたいんだ……!」と膝を打つ思いだった。アイドルとファンの関係性をどうプロデューシングするかについては色々な形があろう。しかし少なくとも橋口氏ならびに少年ハリウッドプロジェクトが、”憧れ”の気持ちとそれが生む絶妙な距離感を大切にし続ける限り、私を含めたファンは安心して、ステージの上でキラキラと輝く少ハリ、ぜんハリのメンバー達を信じ、声援を送り続けられるだろうと確信したのだった。

文=ショコラ・バニラ 編集=はるのおと