ライトノベルが教科書の授業って? その意図を大学講師に聞いてみた―「『ソードアート・オンライン』は、教材として理想的」

アニメ・マンガ

2015/5/11

 「ライトノベルは文学ではない」。ライトノベル読者であれば、誰でも一度は親や友人、教師からそう言われた経験があるのではないでしょうか。ライトノベルといえば漫画タッチの挿絵であったり、登場人物のくだけた口語一人称表現であったり、魔法や超能力などファンタジックな設定が多いのが特徴です。一般小説や純文学とはかけ離れた印象が強いため、「文学ではない」と思われてしまうのも仕方のない事かもしれません。

 しかし愛知教育大学では今年度も国文学の講義で人気ライトノベル『ソードアート・オンライン』(川原礫:著、abec:イラスト/アスキーメディアワークス)を教科書として採用してインターネット上で話題となったことは皆さんもご存知かと思います。ライトノベルからでも何かを学べるのであれば、ライトノベルは文学なのではないか? ライトノベルを教科書にしていったいどんな授業をしているのか。興味を持った方も多いのではないでしょうか。

 そこで今回は、ライトノベルを教科書にしたユニークな講義を行っている大学教員の広瀬正浩さんにインタビュー取材をしてみました。

━━ライトノベルを教科書として選んだ理由をお聞かせ下さい

 実は、純文学やライトノベルという分類には、それほど興味がありません。日本語で書かれ、現代の日本で受容されている物語について考えるという軸さえ外れなければ、別に問題はないと思っています。

 私が大切だと思っているのは、娯楽や身近な出来事や情報の中にある「当たり前のもの」を拾い出し、なぜそれが「当たり前」とされているのか考え、私たちの感性を批判的かつ建設的に見直すことです。

 その意味で、娯楽的要素がありつつも、仮想世界を通じて現実世界のあり方を相対化するきっかけに満ちた『ソードアート・オンライン』は、教材として理想的でした。ちなみに本務校では「文学」という枠の中で、森見登美彦『四畳半神話大系』や竹宮ゆゆこ『とらドラ!』、成田良悟『デュラララ!!』などを扱ったり、『ひだまりスケッチ』や『リトルバスターズ!』などのアニメを扱うこともありますが、私としては単なる受け狙いでやっているわけではありません(多少は受けも狙っています)。

━━ライトノベルから学ぶためにはどのような読書をすればいいのでしょうか?

 非常に基本的ですが、物語の設定や登場人物の言動などに対して「なぜ?」という問いをぶつけることです。小説を読み、自分の気になる場面について、「なぜ自分はこの設定を面白いと思うのか?」「なぜこの場面は自分の心に刺さるのか?」「なぜ自分はこの語り口に腹が立つのか?」と問題提起をするのです。次に、「この場面にこんなにも心動かされている自分とは何か?」と疑問視してみるのです。現在の自分の立場や感受性が現代社会においてどのように成り立っているのか、俯瞰的に考えなければなりません。そうした問いの一つ一つに真摯に向き合うことが、単なる娯楽でない、研究のための読書になります。

━━大学の講義としてどのような課題を与えているのでしょうか?

 授業では、『ソードアート・オンライン』の様々な場面に注目して問いを設定し、ヒントとなる情報や考察の仕方を示した上で、学生にミニレポートを書いてもらっています。

 たとえば「もしあなたがゲームの仮想世界の中から長時間出られなくなったら、どのような行動をするか」といった課題には、「アスナのように現実世界に戻る努力を続ける」と書く学生もいれば、「長時間いれば、自分がいるところが“現実”になるから、仮想世界で充実した生を営む」と書く学生もいます。この意見の違いは、「現実」というものに対する各人の期待の違いによって生じます。ではそのような「現実」に対する期待がなぜ多様化しているのか、という更なる問いが生まれます。

 こうして幾つかの問いを繋げていきながら、学生の思考を蓄積させていきます。学期末に課すレポートでは、『ソードアート・オンライン』を読んで自分が考えたことを比較的自由に書かせています。

━━学生からの反響はどうなのでしょうか?

 この授業は今年度で3年目です。毎年、ライトノベルに対するミーハーな気分から受講する学生や、逆にライトノベルへの拒否反応から授業に対して懐疑的な学生が少なからずいます。しかしそんな学生も、授業が進み、こちらの狙いを理解すると、それなりに問題意識を持って授業に臨んでくれるようになります。昨年度の学期末は、「意外と真面目な内容で面白かった」「現代文学について研究する手掛かりを得た」というような感想をもらいました。こちらとしても嬉しかったです。

━━ありがとうございました。今年度の授業も頑張ってください

 インタビューを通してライトノベルは文学か否かは、読者の心がけ次第だと感じました。皆さんもライトノベルの読み方を変えると、また新しい魅力が見つかるかもしれません。

●広瀬 正浩(ひろせ まさひろ)
椙山女学園大学・国際コミュニケーション学部准教授。愛知教育大学では非常勤。専門は現代日本文学研究とポピュラー音楽研究。著書に『戦後日本の聴覚文化』(青弓社)がある。本務校で「アニメ・マンガ研究支援プロジェクト」を立ち上げて活動中。

文=愛咲優詩