「諸君は必ず失敗する」と伝えよ ―子どもたちの心にジーンとくるお話本

出産・子育て

公開日:2015/5/10

 未来を担う子どもたちには、できれば人生のスタート地点で豊かな人間観を築き、自分はもちろん、他人のことも大切にできる心を育んでいってほしい。そう誰もが願いつつも、メディアを見れば殺伐とした事件が目に付き、学校教師が悩める時代が続いている。

 そんな中、『子どもたちの心が育つ!! 精選 ジーンとくるお話文例集』(奥平厚洋/小学館)が発行された。今この時期に、いったいどんなお話で子どもたちの心をジーンとさせようというのか。純粋な興味から手に取ってみた。

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 本書は、元千葉県公立小学校教諭の奥平厚洋氏が、小中学校教師を対象に執筆したもの。有名人の心に響く言葉や歳時記、偉人のエピソードから話材を精選して、月単位で紹介。朝の会や帰りの会、給食時間、授業の導入などさまざまな場面で用いて子どもたちの心をつかんで育てる、保存版のネタ帳的な一冊だ。

サン・テグジュペリからモンペ対策まで、地固めの4月

 4月のいい言葉はサン・テグジュペリの『星の王子さま』から、「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ」が取り上げられている。

「心で見る」ことは、大人にとってもたやすくはない。本書では『星の王子さま』の言葉にからめて、自分が人の言葉に流されてはいないかを、子どもたちに問いかける。たとえば「○○さんがあなたを意地悪だと言っていたよ」と聞くと、直接聞いてもいないのに○○さんのことを嫌ってしまうことがある。ある人がみんなに避けられているのを見ると、自分もその人を疎んじてしまうようなこともある。

 でも、はたして本当に意地悪だと言ったのか、みんなが避けるのはなぜなのか、その理由を自分自身で考えてみることが大切なのではないだろうか。まずは自分の目や耳でしっかり見聞きし、“本当はどうなのだろう、ほかの人はどう思っているのだろう”と、周囲に流されずに立ち止まって考えることを大切にしていこう、とそんな文例が提案されている。

 振り返れば我々大人たちも、人から伝え聞いた話やネット記事をまるっとうのみにしがちではないだろうか。幼い心に、ものごとをきちんと考えてからとらえる視点を育むことは大切だ。

 ちなみに4月は最初の授業参観があるため、たった数回の授業で「あの先生はねえ」とよからぬレッテルを貼られぬよう、保護者会で注意すべき言動についても言及されている。ものごとなんでも最初が肝心。

「諸君は必ず失敗する」と、現実を突きつける5月

 子どもたちのみならず、大人世代の間にも、失敗を恐れて困難や面倒な案件は回避する傾向があるのは否めない。そこで大隈重信のこの言葉が登場する。

 生きていれば、必ず失敗する。それもずいぶんと失敗する。むしろ成功よりも失敗のほうが多いものだと、現実のシビアさをたたみかける。けれども、人は失敗からこそ大切な経験を得るものだ。失敗はむしろ成功のもとなのだと子どもたちの心を導いてゆき、エジソンの幼少時代の話につなげてゆく。

「そうか、そんなものなのか」「じゃあ、たとえ失敗しても大丈夫なのだ」と、頭のやわらかい時分にそう思えれば、転ぶことなど恐れなくなるかもしれない。今どきの子供たちが腹落ちしてジーンとくるかどうかは、教師の技量次第だろう。

 ほかにこの月の話題としては、急増する子どもの自転車事故防止のための正しい乗り方指導や、街で見かける盲導犬への理解を深めたり、朝ごはんをきちんと食べることの大切さをピックアップ。子どもたちの心身がバランスよく成長してほしいものだ。

時間には限界があり、決して無限ではない

 毎日忙しく日々を過ごしていると、あっという間にひと月が終わり、1年が過ぎ去ってゆく。11月の話題は鎌倉時代の禅僧・道元の述べた言葉から「いたずらに過ごす月日は多けれど道を求むる時ぞ少なき」を紹介。1時間は60分、1日は24時間。だらだら過ごしても、有意義に過ごしても、自分たちに与えられた時間には限りがある。二学期も残すところあと1カ月のこの時期、さていったいどのように過ごすのか? と、子どもたちの気持ちを改めて引き締める。

 この月は、学びたくても学べない開発途上国の子どもたちに思いを馳せ、生活習慣病にならないための食生活のポイントなども学ぶ。今や子どもの間にも生活習慣病が増えている昨今。体だけでなく、心によくない習慣も断ち切ってほしいと願うばかり。

 本書にはこのように心を育てる話や時節ネタ、トリビア的な豆知識まで、バラエティ豊かに網羅されている。常識のおさらい的なクイズコーナーもある。おそらくこの本は、書かれているエッセンスを汲み取り、いかに目の前にいる人の心に“ジ~ン”と響くように伝えられるのか、話し手が工夫をこらすあたりにキモがあると思われる。教師向けの本ということだが、子育てやオフィスでも応用できそうな話材がつまっている。心の栄養になるようないい話のネタを仕入れたい人、幼い子どもをもつ人、大切な何かを思い出したい大人たちに、ぜひおすすめしたい一冊だ。

文=タニハタマユミ