『不思議の国のアリス』150周年で関連書が続々! 注目は佐々木マキが挿絵のポップな新訳版

文芸・カルチャー

2015/5/15

 坂本龍馬が薩長同盟実現のために東奔西走し、新選組がその名を天下に轟かせていた1865年。まだ日本が江戸時代のそんな頃、イギリスではルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』が出版されていた。

 日本人が刀で斬り合いをしていた時代に、もう生まれていた作品なのか……と驚いてしまうが、今年はその出版から150年。アニバーサリー・イヤーということで、関連書籍が続々と登場している。

 その世界への迫り方も非常にバラエティ豊か。文章に着目した『アリスのことば学 – 不思議の国のプリズム』(稲木昭子・沖田知子/大阪大学出版会)、アリス好きのクリエイター30人が参加した『不思議の国のアリス ビジュアルファンBOOK』(マイナビ)、ユリイカ臨時増刊号の『150年目の「不思議の国のアリス」』(青土社)などなど、様々なタイプの本が発売されている。

 が、しかし。「ぶっちゃけどんなストーリーか忘れかけている」「ディズニーのアニメは見た記憶があるけど、本は読んだことがない」みたいな人も実は多いのではないだろうか。そんなアリス初心者・再入門者たちにもオススメしたいのが、新訳の『不思議の国のアリス』(ルイス・キャロル:著、高山宏:訳、佐々木マキ:絵/亜紀書房)だ。

 なんといっても注目は、佐々木マキの挿絵。佐々木マキといえば、種を植えて育った木にブタがたわわに実ったり(『ぶたのたね』)、岩山から天然のココアが湧き出したりする(『変なお茶会』)、ナンセンスな絵本でおなじみの作家だ。アリスのモデルで、キャロルに“There will be nonsense in it.”(ナンセンスな話も入れてよね)とお話をせがんでいたアリス・リデルも、きっと喜ぶ人選のはず!

 実際に本書を読んでみても、シュールでポップでアナーキーな佐々木マキの絵は、期待通りアリスの世界観にピッタリ。ときに本文にぐいぐい食い込んでくるような、挿絵の自在な配置も含めてとても楽しい雰囲気だ(デザインは祖父江慎+鯉沼恵一)。

 そして佐々木マキの描くキャラクターは可愛らしさも際立っているのだが、これは過去の『不思議の国のアリス』の挿絵にはあまりなかった特徴かも。

 たとえば1865年の刊行時の作品に描かれたジョン・テニエルの挿絵(日本でも角川文庫版などに収録)は、彼が風刺漫画を得意としていたこともあり、皮肉の面が際立った雰囲気。一方、日本で人気の高い金子國義の挿絵(新潮文庫版など)は、ゴシック調で耽美的な印象だ。

 もちろん人により好みは分かれそうだが、マンガやアニメに慣れ親しんだ今の時代の日本人が読むなら、佐々木マキ版はいちばん親しみやすいかも。なお、『不思議の国のアリス』の挿絵は、サルバドール・ダリも、トーベ・ヤンソンも、マリー・ローランサンも和田誠も描いているので、いろいろ見比べてみるのも面白いはず。

 なお、佐々木マキの絵と合わさる高山宏の新訳も、溌剌とした言葉がリズムよく行き交う、テンポの良い会話運びが印象的。他の本では「こやつら」「この者たち」と訳しているところを「きゃつら」としていたり、章のタイトル「A Mad Tea-Party」も「気がふれ茶った会」と訳したりと、言葉遊びも満載だ。

 冒頭に紹介した『アリスのことば』によると、ルイス・キャロルは子供の頃から「度を越した言語遊戯癖」があったそうで、『不思議の国のアリス』も原文の時点で相当なレベルの言葉遊びが満載。今回の高山訳でも「もちろん第一は酔み掻き。それからお算用の加減乗除――抱け大志算、気を惹き算、美欠け算に罵詈算だ」みたいなスゴい文章がたびたび出てくるが、それもナンセンスな原文の雰囲気を日本語に移し替えた結果なのだ。

 アニメや絵本でしか『不思議の国のアリス』に触れたことがなかった人が、この新訳を読むと、「こんなハチャメチャな話だったの……!?」と驚くかも。また、「大変、大変、間に合わん!」と時計を持って焦るウサギの姿が、時間に追われる社会人のように見えてきたりと、この作品の持つ社会風刺的な側面にも気づくかもしれない。

 実は子供より大人のほうがより深く楽しめる、ナンセンスや風刺が満載の『不思議の国のアリス』。過去の訳で未読の人もぜひチャレンジを!

文=古澤誠一郎